育児休業給付金の延長厳格化:2025年4月からの変更点と対策

はじめに

「育休の手続き、これであってるかな…?」従業員から育休関連の相談を受けるたびに、不安を感じていませんか?育児介護休業法の複雑な要件、たび重なる法改正へのキャッチアップに苦労している担当者も多いかと思います。
育児休業関連の手続きは多岐に渡りますが、その手続きを間違えたり失念したりすれば、従業員の生活設計を狂わせ、会社への不信感にもつながりかねません。なかでも育児休業給付金の延長手続きについては要注意ポイントがあります。
この記事では、育児休業給付金の支給対象期間延長手続きについて、人事労務担当者として知っておくべきポイントを徹底解説します。また、2025年4月からの厳格化にも対応できるよう、具体的な対策もご紹介します。この記事を読めば、自信を持って従業員をサポートし、安心して育休延長手続きを進められるようになります。

 

育児休業給付金の支給対象期間延長手続きとは

育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得する際に支給される給付金です。
育児休業給付金は、1歳に満たない子を養育するために育児休業を取得するときに、1歳の誕生日の前々日まで支給されます。ただし、「一定の要件」を満たした場合には、最長2歳の誕生日の前々日までを限度として支給対象期間を延長することができます。一定の要件とは、次のいずれかを満たす場合です。

  1. 保育所などに入所を申し込んだが、入所ができなかった場合
  2. 配偶者が死亡、負傷、疾病、障害、または婚姻の解消などにより育児が困難になった場合

保育所などに入所を申し込んだが、入所ができなかった場合とは

ここでは特に1の「保育所などに入所を申し込んだが、入所ができなかった場合」の要件についてご説明します。職場復帰のために保育所の入所を希望し、申し込んだものの、子の1歳の誕生日に入所できない場合に支給対象期間の延長が認められますが、具体的には、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 保育所(無認可保育施設は含まれません)への入所申込みを1歳の誕生日以前に行っていること
  2. 入所希望日(利用開始日)は1歳の誕生日以前であること

対象となる事例、ならない事例

対象となる事例、ならない事例についてさらに掘り下ると次のとおりです。

延長対象となる事例

9月1日に市区町村に保育所の入所申込みに行ったところ、各月の1日、11日、21日が利用開始日であった。子どもが10月29日生まれのため10月21日からの入所申込みを行ったが、定員超過のため入所ができなかった場合。この場合は、1歳の誕生日以前の10月21日の入所申込みのため延長対象となります。なお、市区町村により入所申込みの時期や提出期限が異なります。利用開始日は1歳の誕生日以前とする必要があります。

延長対象とならない事例

【事例1】入所申込み自体を行わなかったケース

市区町村に問い合わせたら「入所は難しい」と言われ、申し込んでも無駄だからと判断して、申し込み自体をしなかった。このような場合は、市町村への問い合わせ日が申込期間内であったとしても、入所申込み自体を行っていないため、延長対象にはなりません。

例外的なケースとして、子どもが病気や障害により特別な配慮が必要で、市区町村から保育体制が整備されていない等の理由により、入所申し込みを受け付けられないとされた場合は、申し込みを行えなかった旨の疎明書等の提出より対応できる場合があります。

【事例2】保育所への入所希望日を、1歳の誕生日の翌日以降としていたケース

10月29日生まれの子どもについて、11月1日の利用開始を希望した場合は、利用開始日が1歳の誕生日以前ではないため、給付金の延長対象とならなりません。入所申込みは1歳の誕生日前に行う必要がありますが、入所希望日も1歳の誕生日以前である必要があります。

例外的に認められる場合があるケース

10月29日生まれの子どもについて、10月21日からの入所を希望して9月1日に申し込もうとしたものの、すでに締め切られていた場合や、空きがなかったため、申し込み可能な最短日である11月1日を入所希望日として申し込んだ場合です。この場合は、「保育所等の入所不承諾通知書」や「利用調整結果通知書(保留)」に加えて、締め切りが過ぎていたことを証明する書類が必要となる可能性があります。

【事例3】一次申込みで内定を受けたが辞退し、二次申込みで落選した場合

入所申込みを行い、一次申込みで内定を受けたが辞退し、二次申込みで落選した場合、「保育所等の入所不承諾通知書」にその事実が記載されることがあります。この通知書をハローワークに提出する際、内定を辞退した理由が確認されます。やむを得ない理由がない場合、育児・介護休業法に基づく適正な申請とは認められず、延長申請は認められません。

例外的に認められる場合があるケース

申込み時点と内定時点で住所や勤務場所が変わり、内定した保育所への入所が困難であった場合などは、例外的に認められるケースもあります。

【事例4】単に申し込みを失念していたケース

これは、やむを得ない事情とは認められません。

育児休業給付金の延長をめぐる問題点

育児休業給付金を延長するため、本来の目的とは異なる方法で保育所の入所申請を行うケースが増加し、問題となっています。
実際には入所する意思がないにもかかわらず、あえて入所倍率の高い保育所や自宅から遠い保育所に申請を行うことで、意図的に落選をねらう行為です。このような行為は、保育所の入所枠をムダに占有し、本当に保育所を必要としている家庭の入所機会をうばうことになります。
さらに、こうした申請は、入所審査をおこなう自治体の事務負担を増加させることにもつながります。自治体では、入所申請の審査や選考に多くの時間と労力を費やしています。しかし、不正な申請が増えることで、本当に保育所を必要としている家庭への対応が遅れたり、職員の負担が増加する点が指摘されています。
一部の申請者のあいだに「入所を希望すれば不承諾通知がもらえて育休延長できる」という誤った情報が広まっていることも問題となっています。このような誤解に基づく申請は、自治体職員の対応時間をさらに増やし、本来の業務に支障をきたす可能性があります。

2025年4月以降の厳格化の動き

こうした問題を解消するために、2025年4月1日以降、育児休業給付金の支給対象期間延長手続きが厳格化される予定です。
これまでは市区町村の発行する「保育所等の入所不承諾通知書」や「保育所入所保留通知書」などにより延長・再延長に該当するかの確認が行われてきましたが、2025年4月からは、保育所等の利用申し込みが「速やかな職場復帰のために行われたものであると認められること」により判断されます。

速やかな職場復帰とは

速やかな職場復帰のために行われたものであると認められるためには、以下①〜③の要件のすべてを満たしている必要があります。

  1. 原則として子どもが1歳に達する日の翌日以前の日を入所希望日として入所申し込みをしていること
  2. 申し込んだ保育所等が、合理的な理由※なく自宅から通所に片道30分以上要する施設のみとなっていないこと
  3. 市区町村に対する保育利用の申し込みに当たり、入所保留となることを希望する旨の意思表示をしていないこと

※ 「合理的な理由」として認められるのは、申し込んだ保育所等が従業員本人または配偶者の通勤経路の途中にある場合(従業員本人または配偶者の勤務先からの片道の通所時間が30分未満の場合を含む)等の限定的なものになっています。

「合理的な理由」として認められるケース
a. 申し込んだ保育所等が本人または配偶者の通勤経路の途中にある場合(本人または配偶者の勤務先からの片道の通所時間が30分未満の場合を含みます)
b. 自宅から30分未満で通うことができる保育所等がない場合
c. 自宅から30分未満で通うことができる保育所等の全てについて、その開所時間または開所日(曜日)では職場復帰後の勤務時間または勤務日(曜日)に対応できない場合
d. 子が疾病や障害により特別に配慮が必要であり、30分未満で通える保育所等は全て申し込み不可となっている場合(医師の診断書、障害者手帳の写し等が必要です)
e. その他、きょうだいが在籍している保育所等と同じ保育所等の利用を希望する場合、30分未満で通える保育所等がいずれも過去3年以内に児童への虐待等について都道府県または市区町村から行政指導等を受けていた場合も「合理的な理由」として認められます

2025年4月以降の手続き

2025年4月以降の延長・再延長時には、保育所等の利用申し込みが、速やかな職場復帰のために行われたものであると認められることの判断ができるよう「育児休業給付金支給申請書」に以下の書類を添付する必要があります。

このうち、「育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書」は、申請する従業員が作成することになります。
今回変更される手続きの対象は、子が1歳に達する日または1歳6ヶ月に達する日が2025年4月1日以後となる従業員で、育児休業給付金の支給対象期間の延長を行う場合となります。

まとめ

この記事では、育児休業給付金の延長手続きについて、人事労務担当者に向けてポイントを絞って解説しました。特に、保育園が見つからない場合の注意点や、2025年4月からの変更点については要注意です。育休延長の手続きって複雑で、担当者としても不安ですよね。でも、この記事を読めば、従業員からの質問にも自信を持って答えられるはずです。
2025年4月からの変更点については、従業員への周知や手続き方法の見直しなど、今から準備しておきましょう。
正確な情報把握と丁寧なサポートで、従業員が安心して職場復帰できるよう支えていきましょう!