人材不足でも焦りは禁物!採用面接対策で誤採用を防ぐ方法

はじめに

現在、多くの企業が「募集をかけても応募が集まらない」という人材不足に悩んでいます。その結果、十分な面接を行わないまま採用を決定し、後から問題が発覚してトラブルに発展するケースが増えています。このような採用ミスは、労使双方だけでなく、職場全体を巻き込み、深刻な負担を生むことも少なくありません。
採用面接では、応募者のスキルや経歴を確認することはもちろんですが、それだけに留まらない重要な要素を見逃さないことが肝心です。これらを十分に確認せずに採用した場合、後から「もっとしっかり確認しておけばよかった」と後悔することも起こり得ます。
本記事では、採用時の確認がなぜ重要なのかを解説し、特に見逃しがちな重要ポイントに焦点を当てます。さらに、面接時に気を付けるべきNG質問や、万一トラブルが発生した際の対処法も併せて紹介します。

採用時の確認が必要な理由

企業が新しい人材を採用する際、応募者のスキルや経歴だけでなく、そのほかの要素を適切に確認することが重要です。採用後のトラブルを未然に防ぐためには、面接の段階で必要な情報を正確に把握し、企業と応募者の間で誤解が生じないようにすることが求められます。ここでは、採用時の確認が必要な理由を「採用の自由と制限」「解雇のハードルの高さ」という2つの視点から解説します。

採用自由の原則と制限

採用活動において、企業は基本的に自らの基準で誰を採用するかを自由に決めることができます。この「採用の自由の原則」は、企業が自社に適した人材を選び、組織の成長を支えるための重要な権利といえます。ただし、この原則には法令による制限が伴います。例えば、男女雇用機会均等法は性別による差別を禁じており、職業安定法では年齢を理由とした採用制限が禁止されています。

応募者の権利と義務

一方で、応募者には「確認されていない不利な情報を自分から開示する義務はない」という考え方があります。応募者は自分を有利に見せるために、履歴書や職務経歴書で積極的にアピールしますが、企業側から明確に確認されない限り、不利となる情報を自ら進んで伝える必要はありません。ただし、面接で尋ねられた事項については正直に答える義務があり、虚偽の申告をした場合には「経歴詐称」とみなされる可能性があります。このような応募者の権利と義務のバランスを、企業と応募者の双方が理解し、採用活動を進めることが重要です。

解雇ハードルの高さ

採用を決定し、いったん雇用契約が締結されると、企業が労働者を解雇することは非常に難しくなります。日本の労働法では「解雇権濫用法理」が設けられており、不当な理由で労働者を解雇することは法律で厳しく制限されています。特に「試用期間中であれば簡単に解雇できる」と考えるのは危険です。試用期間中であっても労働契約は有効に成立しており、解雇する場合には「業務遂行に重大な支障がある」など、正当な理由が必要です。そのため、たとえ試用期間中に経歴詐称や問題行動が発覚しても、それが業務に直接影響を及ぼさない場合や、解雇理由として十分な根拠がない場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものとして、解雇自体が不当とみなされる可能性があります。
また、不当解雇と判断された場合、企業は高額な解決金の支払いを求められることもあります。裁判や労働審判にまで発展すれば、和解したとしても解決金の相場は100万円を超えるとの統計があります。このようなトラブルを避けるためにも、採用時の面接で慎重に確認を行い、問題を未然に防ぐことが重要です。

確認すべき重要ポイント

採用面接では、応募者のスキルや経歴の確認を行うのはもちろんですが、それだけでは不十分です。前職の離職理由や健康状態といった、業務への適応性を見極めるための情報を見逃すと、採用後にトラブルをまねく可能性があります。ここでは「離職理由」と「健康状態」の2つの重要ポイントに絞って詳しく解説します。

前職の離職理由

応募者が前職を離職した理由は、自社での適応や将来の勤続に直接かかわる可能性があります。例えば、前職での離職理由が「人間関係のトラブル」や「過重労働」といった場合、同様の問題が自社に存在するならば、短期離職のリスクが高まるかもしれません。一方で、スキルアップやキャリアチェンジといったポジティブな理由であれば、応募者の前向きな姿勢を確認できるポイントにもなります。

具体的な確認方法

離職理由を確認する際には、応募者の発言だけでなく、客観的な書類を活用することで裏付けをとることも可能です。例えば、離職票や退職証明書には、前職を退職した理由が記載されています。また、年金記録を確認することで、勤務していた会社名や職歴の空白期間を把握することも可能です。さらに、採用面接時に「これまで解雇や懲戒解雇、退職勧奨を受けたことがありますか?」と直接質問し、回答をもとに詳しくヒアリングを行うことも有効です。

注意点

離職理由については、応募者の曖昧な表現に注意する必要があります。例えば、「一身上の都合」という表現は、自己都合退職を指す場合が多いものの、その背景には解雇や懲戒解雇といった重大な事実が隠れていることもあります。このようなケースでは、具体的な事情を深く掘り下げる必要があります。ただし、聞き方には十分配慮することが求められます。

健康状態

採用した労働者を安全かつ健康に働かせることは、企業の「安全配慮義務」として法的に求められる責任です。応募者の健康状態を事前に把握し、業務上のリスクや特別な配慮が必要な点を確認することは、企業が安全配慮義務を果たすためにも認められると解釈されます。例えば、体力的な負担が大きい業務や精神的ストレスがかかる業務を担当する場合には、応募者の健康状態がそれらの業務に適しているかどうかを確認する必要があります。

聞き方の工夫

健康状態に関する質問を行う際には、業務との関連性を明確にしたうえで、本人の同意を得ることが重要です。例えば、「ここ1年以内に定期健康診断で異常を指摘されたことがありますか?」や「特定の配慮が必要な健康状態はありますか?」といった、具体的で業務に関連した質問が適切です。また、業務に支障をきたす可能性がある場合には、どのような配慮が必要かを確認することで、採用後のトラブルを回避できます。

取り扱いの注意

応募者の健康状態に関する情報は、「要配慮個人情報」として扱う必要があります。このため、聞き取り内容は適切に管理し、必要最小限の担当者以外がアクセスできないようにすることが必須です。また、同意を得ずに無理に回答を求めたり、業務に無関係な内容を質問することは避けなければなりません。さらに、健康状態を理由に採用を拒否する場合は、その判断が業務に必要な範囲であることを示す根拠を明確にしておく必要があります。
離職理由と健康状態は、採用面接における確認項目として特に重要な要素です。これらを適切に確認することで、企業は労使双方にとって最適な選択を行うことができます。一方で、確認の際には法令やプライバシーへの配慮を怠らないよう注意し、トラブルを未然に防ぐことが求められます。

採用面接で聞いてはいけないこと

採用面接では応募者の適性を見極めることが重要ですが、その過程で法令やプライバシーに配慮する必要があります。特に、業務に無関係な情報や個人の思想・信条に関する質問は、差別や不平等な扱いにつながる可能性があることに留意する必要があります。ここでは、面接時に「聞いてはいけないこと」とその具体例ついて解説します。

本人責任がない情報

応募者自身の責任とは無関係な情報を尋ねることは、面接で避けるべき行為の一つです。例えば、以下のような質問がこれに該当します

・本籍地や出生地に関する質問
・家族構成や家族の職業、収入
・住宅の種類や間取り、賃貸か持ち家かの確認

これらの情報は、応募者の職務適性や能力とは無関係であり、質問することで差別的な意図があると受け取られる可能性があります。
また、採用基準として使用することも法的に問題が生じる場合が多いため、業務に直接関係のない個人情報を聞くべきではありません。

思想・信条に関する情報

応募者の思想や信条に関連する質問も、プライバシー侵害や差別につながる可能性があるため、原則として禁止されています。以下は具体的な例です。

・労働組合への加入歴
・宗教や信仰に関する質問
・尊敬する人物や政治思想に関する質問

例えば、労働組合への加入歴を質問することで、応募者が「組合活動に基づく不利益な扱いを受けるのではないか」と懸念する可能性があります。また、愛読書や新聞・雑誌の購読状況について尋ねる行為も、思想や信条に関連付けられる恐れがあるため注意が必要です。これらの質問は、業務に関連する場合を除いて避けるべきです。

NG質問を避ける工夫

面接時に「聞いてはいけないこと」をうっかり尋ねてしまうリスクを回避するためには、採用活動全体における注意が必要です。特に、面接時に使用する質問リストを事前に見直し、業務に関連性が薄い項目や、応募者のプライバシーに踏み込む恐れがある内容を排除することが重要です。
さらに、面接官への教育も有効な対策です。NG質問の具体例やそのリスクについて理解を深めることで、現場での誤りを防ぐことができます。
採用活動において、企業が応募者の能力や適性を正しく評価することは重要ですが、それ以上に法令を遵守し、応募者の権利やプライバシーを尊重することが求められます。

トラブル発生時の対応

採用時に慎重な確認を行ったとしても、採用後にトラブルが発生することは避けられない場合があります。特に、経歴詐称や健康状態に関する問題が発覚した場合には、企業として適切に対応することが求められます。ここでは、「経歴詐称が判明した場合」と「健康状態に関するトラブル」の2つのケースについて解説します。

経歴詐称が判明した場合

採用後に経歴詐称が判明した場合、企業はその内容が懲戒解雇に該当するかどうかを慎重に判断する必要があります。
まず大前提として、経歴詐称を理由に懲戒解雇を行うためには、就業規則にその旨を明記していることが必須です。就業規則に該当する規定がない場合、懲戒解雇は無効とされるリスクが高いです。また、就業規則は従業員に周知されていなければならず、単に規則が存在するだけでは効力を発揮しません。
さらに、経歴詐称が懲戒解雇の対象となるには、その詐称内容が「採用時に判明していれば採用しなかった」といえるほど重大であることが必要です。業務に影響を及ぼさない程度の詐称であれば、懲戒解雇は認められない可能性があります。
また、採用面接時に応募者が単に重大な経歴を伏せていただけで、それについて企業側の確認が不十分だった場合は、そもそも経歴詐称ともいえない状態になります。
このため、多くの企業では懲戒解雇ではなく、退職勧奨という形で解決を図るのが実務上の一般的な対応となっています。

健康状態に関するトラブル

採用後に健康状態に関する問題が発覚した場合、企業はその状況が業務に与える影響を慎重に見極める必要があります。特に、安全配慮義務に基づき、労働者の健康を守る責任を果たすためにも、業務との関連性を明確にした判断が求められます。
例えば、健康状態が業務の遂行に著しい支障をきたす場合、企業は配置転換や業務内容の調整などの措置を検討することができます。ただし、これらの対応を行う際には、応募者から得た健康情報が正当かつ必要な範囲内で収集されたものであることが前提となります。また、業務への影響が大きい場合でも、医師の診断や第三者の意見を参考にし、解雇という最終的な措置を検討する際には慎重な判断が必要です。
さらに、健康状態を理由に解雇を行う場合、その正当性を示すための客観的な根拠が求められます。例えば、特定の業務に適さない健康上の制約があることが事前に判明していたにもかかわらず、企業が確認を怠った場合には、不当解雇とされるリスクも考慮する必要があります。
経歴詐称や健康状態に関する問題が発覚した場合には、法律や就業規則を踏まえた慎重な対応が求められます。いずれのケースにおいても、解雇や退職勧奨を行う際には、その手続きが正当であり、労使双方が納得できる形となるよう配慮することが重要です。

まとめ

採用面接時にしっかり確認を行うことは、採用後のトラブルを防ぐために欠かせません。特に「離職理由」と「健康状態」の確認は、応募者の適性を見極めるうえで重要です。これらを適切に確認することで、職場での短期離職や業務への影響を未然に防ぐことができます。
一方で、法令を遵守し、応募者の権利やプライバシーに配慮した対応が必要です。本人責任がない情報や思想・信条に関する質問を避け、公平で透明性のある採用を心掛けましょう。
この記事を参考に、採用時の確認項目や手順を見直し、トラブル防止に役立つチェックリストやフォーマットを作成することをおすすめします。
適切な採用活動を行うことで、企業と応募者双方にとって理想的な雇用環境を実現できます。