カスハラ対策は就業規則に何を書く?厚労省の規定例と社労士の作成例

令和8年10月1日施行|社労士解説

カスハラ対策は就業規則に何を書く?
厚労省の規定例と社労士の作成例

国の指針が就業規則等への規定を例に挙げているのは2点です。厚生労働省の規定例と、当法人の作成例(抜粋)を紹介します。

📅 公開日: 2026年9月29日 ✍ 特定社会保険労務士 溝口 学

結論: カスハラ対策で、国の指針が就業規則等への規定を例に挙げているのは、相談したことなどを理由に不利益な取扱いをされない旨と、自社の従業員が行為者になった場合の懲戒の2点です。いずれも、就業規則の改定を一律に求めるものではありません。

この記事の要点

  • 厚生労働省の規定例(ひな形)は、ハラスメント対策パンフレットNo.22 の「対応例」(p.40〜47)にあります。モデル就業規則には、カスハラの条文はありません
  • パワハラ防止規程に「カスハラ」の語を足すだけでは、現場での対処の内容と、特に悪質な事案への対処の方針・体制が抜けます
  • 規定を書いただけでは、措置はそろいません。10項目のうち9項目は、周知と運用までそろえて措置になります
  • 常時10人以上の事業場で規程を変えたら、意見聴取・届出・周知を行います。10人未満の会社も、措置は同じように講じます
SECTION 01

カスハラ対策で就業規則に書くことは何?指針が例に挙げるのは2点

国のカスハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)の本文に「就業規則」という語が出てくるのは、2か所だけです。不利益な取扱いをされない旨の規定と、自社の従業員が行為者になった場合の懲戒です。

カスハラ対策は、令和8年10月1日から、企業の規模を問わず義務になります。講じる措置は10項目です(厚生労働省の通達(令和8年4月24日 雇均発0424第2号))。定義や線引きは、義務化の全体像の記事にまとめています。

この記事で使う言葉

  • カスタマーハラスメント(カスハラ): 顧客等(取引先の従業員等を含む)の言動のうち、社会通念上許容される範囲を超えたもので、従業員の就業環境が害されるもの。苦情の全てが当たるわけではありません(厚生労働省の規定例 第2条第2項の要約)
  • カスハラ防止指針: 事業主が講ずべき措置の内容を定めた、厚生労働省の指針
  • 不利益な取扱い: 相談したことや、相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする、解雇その他の不利益な取扱い
  • 服務規律: 職場内の規律

指針で「就業規則」が出てくる2か所

1か所目義務

相談等を理由に、不利益な取扱いをされない旨を定めて、周知・啓発する

方法の例は、①就業規則等に規定して周知、②社内報等に記載して配布。就業規則でなくてもよい

2か所目望ましい取組

自社の従業員が行為者になった場合の懲戒

就業規則等の規定に基づき、懲戒その他の措置を講ずる

方針や対処の内容など、ほかの措置で指針が挙げる例は、社内報、マニュアル、研修などです。就業規則は出てきません。

1か所目の定めは、就業規則に書かなくても措置として認められます。社内報等に記載して配布する方法もあるためです。どの方法でも、定めることと周知・啓発の両方が求められます。従業員が相談しやすくなるようにするためです。

私は、「指揮命令権」と「安全配慮義務」は表裏一体だと考えています。会社は指示を出す権限を持ち、従業員は働く場所や人間関係を選べません。会社には、その環境が安全であるよう配慮する責任があります。

2か所目の懲戒について、厚生労働省のQ&A(ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項)は、既存の懲戒規定(信用失墜行為や服務規律違反など)で必要な措置を講ずることが可能なら、規定を新たに設ける必要は必ずしもない、としています。まず、自社の懲戒の事由で、取引先等への言動が読めるかを確かめます。読めない場合、懲戒をするには規定が要ります。厚生労働省のモデル就業規則も、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないとしています。

根拠カスハラ防止指針4(5)ロ・5(2)、通達 p.18、解釈事項 問19、モデル就業規則(令和7年12月版)p.88

では、この2点を実際の条文にすると、どんな書き方になるのでしょうか。

SECTION 02

カスハラの規定例(記載例)はどこにある?厚労省の例と当法人の作成例

規定例は、厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(令和8年7月作成・パンフレットNo.22)の「Ⅸ 対応例」(p.40〜47)にあります。主な形は2つです。例1 は、就業規則の本体(本則)に委任規定を置き、詳細を別の文書(別規定)に定める形です。例2 は、既存の規定に周知文書を組み合わせる形です。委任規定とは、詳細を別に定めることを、本則に書いた条文です。

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)に、カスハラの条文はありません(令和8年9月27日確認)。

例1 の委任規定は、次のとおりです。

第□条 ハラスメントの禁止 パワーハラスメント、カスタマーハラスメント、セクシュアルハラスメント、求職者等に対するセクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント及び育児・介護休業等に関するハラスメントについては、第○条(服務規律)及び第△条(懲戒)のほか、詳細は「ハラスメントの防止に関する規定」により別に定める。

(出典: パンフレットNo.22 p.40)

別規定は全8条です。規定のほかに、相談窓口の設置と周知、自社にあったマニュアル等の整備と抑止のための措置が要るとされています(規定例の注1・注3)。

なお、この記事では、厚生労働省の例は題名のとおり「規定」、当法人の作成例など会社の文書は「規程」と書きます。

例2 は、既存の服務規律・懲戒の規定に、周知文書を組み合わせる形です。この形でカスハラについて足りるのは、自社の従業員が取引先等に行った場合の、懲戒の根拠を示す部分(指針の望ましい取組)までです。対処の内容と抑止のための措置は、この形でも別に要ります。

どの文書に何を書くか(例1 の形の目安)

就業規則になる文書常時10人以上の事業場は、意見聴取・届出・周知が要る

1就業規則の本則

  • 委任規定(詳細は別規程に定める)
  • 服務規律
  • 懲戒(自社の従業員が行為者の場合)

2ハラスメント防止規程(別規程)

  • カスハラの定義
  • 他社の従業員に対する禁止行為
  • 懲戒・相談
  • 不利益な取扱いをしない旨
  • 会社として毅然と対応する基本姿勢

就業規則以外の文書でもよいもの周知・啓発まで行って措置になる

3方針・周知文書

社内報、パンフレット、社内ホームページ、掲示など

  • 毅然と対応し、従業員を守る方針
  • 不利益な取扱いをされない旨
  • 対処の内容の周知

4カスハラ対応マニュアル

現場での対処の手順

  • 上司(管理監督者等)への報告
  • 一人で対応させない
  • 録音・録画
  • 切り上げの目安の時間
  • 警察への通報
厚生労働省の規定例(例1)と指針の例をもとに、当法人が整理した目安です。会社の規定の状態によって、分け方は変わります。

いまの自社の規定の状態と、参考になる形(目安)

いまの自社の規定の状態参考になる形用意するもの
ハラスメント防止の別規定がある、または作る例1(委任規定+別規定)別規定にカスハラの定義、他社の従業員に対する禁止行為、懲戒、相談、基本姿勢。具体的な対処内容は対応マニュアル
服務規律・懲戒の規定に、ハラスメントに当たる行為への対処が読み込める例2(既存の規定+周知文書)周知文書で、取引先等への言動が既存の懲戒規定の適用の対象になることを示す。対処の内容と抑止のための措置は別に定める
規定の状態を問わない指針が挙げる、社内報等による方法社内報、パンフレット、社内ホームページ等に、方針や不利益な取扱いをされない旨を記載して配布
  • 常時10人以上の事業場で就業規則(別規程を含む)を変更した場合は、意見聴取・届出・周知を行います(手続きは後述)。
  • 厚生労働省の対応例は、会社の規模や状態ごとの使い分けを定めたものではありません。この表は当てはめの目安です。

規定例を Word で入手した方へ

規定例は、公表後に別規定の第3条が直されました。現行版は「次の第2項・第4項から第7項まで」です(p.41)。労働局などから入手した Word には、旧い文言のものがあります(令和8年9月27日時点)。第3条を現行版と見比べてください。

次の表は、厚生労働省の規定例(全8条)に、カスハラへの対応の条を10条足した、当法人の作成例です。足した10条は、主に、会社が行うことを条文にしたものです。

ハラスメントの防止に関する規程(当法人の作成例)の条の見出し

条見出し厚労省の規定例との関係
第1〜6条、第18条目的、定義、禁止行為、懲戒、相談及び苦情への対応、再発防止の義務、その他厚労省の規定例の条(一部に加筆)
第7条カスタマーハラスメントへの基本姿勢加筆(留意事項)
第8条カスタマーハラスメントに関する相談新設
第9条カスタマーハラスメントが起きたときの対処新設
第10条特に悪質なカスタマーハラスメントへの対処新設
第11条事実関係の確認新設
第12条被害を受けた従業員への配慮新設
第13条カスタマーハラスメントの再発防止新設
第14条相談者等のプライバシーの保護及び顧客等の個人情報の取扱い新設
第15条カスタマーハラスメントに関する不利益な取扱いの禁止新設
第16条他社の従業員に対する言動及び他社からの協力の求めへの対応新設
第17条周知及び研修新設

この規程を定めても、相談窓口、対応マニュアル、悪質な事案に対処できる体制は別に整えます。第9条・第10条の条文は、次の章で抜粋します。

私は、ハラスメントを、個人の性格の問題ではなく、組織の構造の問題だと考えています。仕組みやルールを変えられるのは、会社、つまり経営者だけです。

根拠パンフレットNo.22 p.40〜47(規定例の注1・注3は p.42)、カスハラ防止指針4(1)・4(5)ロ

すでにパワハラ・セクハラの防止規程がある会社は、そこに「カスタマーハラスメント」の語を足せば済むのでしょうか。

SECTION 03

パワハラ防止規程にカスハラを足すだけでは、何が抜ける?

主に抜けるのは、現場での対処の内容と、特に悪質なものへの対処の方針・体制です。お客様や取引先とは雇用関係がなく、会社は懲戒等の措置を取れないためです(厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」令和8年度改訂版)。

自社のハラスメント防止規程を開いてみてください。「行為者」は、だれを指しているでしょうか。

厚生労働省のパンフレットの措置の一覧では、パワハラ・セクハラとカスハラで、10項目のうち2つが入れ替わっています。行為者に対する2つの措置が外れ、対処の内容の周知・啓発と、抑止のための措置が入ります(名称は次章の表)。

パワハラ指針とカスハラ指針の違い

項目パワハラカスハラ
方針の中身行ってはならない旨の方針毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針
対処の内容行為者(自社の従業員)への懲戒現場での対処。例: 管理監督者等に直ちに報告、可能な限り一人で対応させない、録音・録画、一定の時間の経過をもって退店を求めたり電話を切ったりする、警察へ通報
特に悪質なものへの対処の方針と体制該当なし方針をあらかじめ定めて周知し、対処できる体制を整備。例: 警告文の発出、店舗・施設等への出入りの禁止
事務所の机で、固定電話の受話器を置く手元
カスハラの指針は、現場での対処の例に、一定の時間の経過をもって電話を切ることを挙げています

私は、語句を足すだけでは足りないと考えています。パワハラの規程は、社内の行為者を懲戒することが骨組みです。カスハラの相手は、会社が懲戒できないお客様や取引先です。決めておくべきなのは、その場でどう対処するかと、悪質な場合に会社としてどこまで対応するかの2つです。

厚生労働省の規定例は、対処の内容を対応マニュアルに委ねています。当法人の作成例は、その骨組み(だれが、何を、どの順で行うか)を規程に書きました。条文の管理監督者等とは、店長、所属長など上司に当たる者のうち、会社が定める者です。労働基準法の管理監督者とは別の語です。

当法人の作成例(抜粋)

(カスタマーハラスメントが起きたときの対処)

第9条 従業員は、カスタマーハラスメントを受けたとき、又は受けていると思われるときは、一人で抱え込まず、直ちに管理監督者等に報告し、その場の対応について指示を受ける。

2 前項の報告を受けた管理監督者等、又はカスタマーハラスメントを現認した管理監督者等は、可能な限り従業員を一人で対応させないこととし、必要に応じて、当該従業員に代わって対応する。

(第3項 略)

4 従業員から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、従業員又は管理監督者等は、カスハラ対応マニュアルに定める目安の時間の経過をもって、顧客等に退去を求め、又は電話を切ることができる。

(第5項以下 略)

(特に悪質なカスタマーハラスメントへの対処)

第10条 (第1項 略)

2 前項の対処を行うか否か及びその内容は、ハラスメント対策責任者の報告に基づき、○○(代表取締役又はその指名する者)が判断する。従業員個人にこの判断を負わせない。ただし、前条第5項の警察への通報は、この限りでない。

(第3項 略)

4 第1項の対処は、事案の状況等に応じて個別に判断して行うものであり、特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントが生じた場合に、常に同項各号の対処を行うことを定めるものではない。

この抜粋は案で、判断する者の役職などは会社が決めて入れます。切り上げの目安の時間や録音の運用は、対応マニュアルで定めます。第9条は、指針が挙げる対処の内容の例に沿ったものです。第10条第2項の判断する者の定めは、当法人の提案です。

相談窓口は、他のハラスメントの窓口と一体にする必要はなく、一体にすることも妨げられません。上司に当たる管理監督者等を、担当者に定めることも考えられるとされています。

机の上の電話と、「相談窓口」と書かれた札
カスハラの相談窓口は、パワハラ・セクハラの窓口と一体にしても、別に設けてもかまいません

プライバシー保護の対象は相談者等で、カスハラでは行為者を除きます。お客様などの個人情報は、個人情報保護法などに基づき、適切に取り扱う必要があります。

根拠企業マニュアル(令和8年度改訂版)p.42、パンフレットNo.22 p.24・p.26〜27・p.33・p.55(パワハラ防止指針)、カスハラ防止指針4(1)イ・ロ、4(2)、4(4)、解釈事項 問12、通達 p.18

では、抜けている点を規定に書き足せば、措置はそろうのでしょうか。

SECTION 04

規定を足しただけでは、措置のうち何が残る?

規程に条を足しただけでは、措置はそろいません。指針が就業規則等への規定を方法の例に挙げるのは、10項目のうち1項目だけです。残りの9項目は、書く文書の指定がなく、内容を定めたうえで、周知、体制の整備、運用までそろえて措置になります。

10項目は、厚生労働省のパンフレットの数え方で、義務化の全体像の記事や当法人のセルフ診断と同じです。

措置10項目と、就業規則の例示

1項目就業規則等への規定が、方法の例に挙がる

9項目書く文書の指定なし。周知・体制・運用までそろえて措置になる

  1. ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発周知・体制・運用
  2. カスタマーハラスメントへの対処の内容の周知・啓発周知・体制・運用
  3. 相談窓口の設置と周知周知・体制・運用
  4. 相談に対する適切な対応周知・体制・運用
  5. 事実関係の迅速かつ正確な確認周知・体制・運用
  6. 被害者に対する適正な配慮の措置の実施周知・体制・運用
  7. 再発防止措置の実施周知・体制・運用
  8. 対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置周知・体制・運用
  9. 当事者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知周知・体制・運用
  10. 相談、協力等を理由に不利益な取扱いをされない旨の定めと周知・啓発規定が方法の例就業規則等への規定、または社内報等への記載・配布
  • 「周知・体制・運用」の9項目も、就業規則に書いてはいけないという意味ではありません。当法人の作成例のように、骨組みを規程に書くことはできます。
  • 自社の従業員が行為者の場合の懲戒は望ましい取組で、10項目に入りません。

規定を足しても、残りの9項目は周知と運用で決まります

御社が10項目のうちいくつ対応できているかは、無料のセルフ診断シートで確かめられます。国の指針が求める10項目に○×を付けていく形式で、10分ほどで終わります。

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厚生労働省のQ&A(解釈事項)によると、方針と対処の内容は、顧客対応のない部署を含め、全ての労働者に周知する必要があります。

業界団体の業種別マニュアルを配布するだけでは、方針の明確化と、対処の内容の措置義務を果たしたことになりません。マニュアルを参考に、自社の実情に応じた調整を行い、方針と対処の内容を定めて周知すれば、この2つは果たしたことになります。相談への対応、事後の対応、抑止のための措置は、別に要ります。

改正法は、事業主が措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではありません。対処の内容は、各事業主が、労働者の状況等の実態に応じて定めます。

電話対応中の従業員の肩に、上司が手を添えて付き添っている様子
困ったときに誰に言えばよいか。現場の従業員が答えられるかどうかを、規定の次に確かめます

規定は出発点です。私が確かめたいのは、現場の従業員が次の2つに答えられるかどうかです。困ったときに誰に言えばよいか。どこまで対応したら切り上げてよいか。答えられなければ、規定があっても、従業員は一人で抱え込みます。

根拠パンフレットNo.22 p.24〜35、カスハラ防止指針4(1)〜(5)、解釈事項 問9・問18・問21(業界団体のマニュアルは問21の続きの問い。指針4(1)イ・ロの措置)

では、改定の手続きは何が必要でしょうか。就業規則のない会社は、どうすればよいでしょうか。

SECTION 05

改定の手続きは何が必要?従業員10人未満の会社はどうする?

常時10人以上の事業場では、別規程も含めて、意見聴取・届出・周知を行います。10人未満の事業場も、措置は同じように講じます。

手続きは、意見聴取・届出・周知

  1. 意見を聴く: 労働者の過半数で組織する労働組合(無ければ過半数代表者)の意見を聴きます(労働基準法第90条)。
  2. 届け出る: 意見を記した書面を添えて、労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第89条)。
  3. 周知する: 従業員に周知します(労働基準法第106条)。就業規則は、作成したり意見を聴いたりしただけでは効力が生じず、周知された時期以降に効力が生じると解されています。

過半数代表者とは、労働者の過半数を代表する者で、労働基準法の管理監督者でなく、投票や挙手などで選ばれた者です(労働基準法施行規則第6条の2)。

この周知は、労働基準法の手続きです。カスハラ対策の措置としての周知・啓発は、求められる水準が違います。厚生労働省のパンフレットは、ハラスメント対策全般について、社内ネットワークへの掲載を例に、「掲載されていることを労働者が知らないということであれば周知しているとは言えません」としています。

別冊の規程も、就業規則の一部なら届出が必要です。労働基準法第89条第10号は、事業場の労働者のすべてに適用される定めを、就業規則の記載事項としています(石川労働局「就業規則作成・届出に関するFAQ」)。

方針は、就業規則以外の文書でも示せます。ただし、全従業員に適用する定めを規程の形にした場合は、常時10人以上の事業場では、就業規則の一部として手続きをします。

従業員10人未満の会社は、就業規則がなくても措置を講じる

常時10人未満の事業場に、就業規則の作成・届出の義務はありません。10人は、会社全体でなく事業場ごとに数えます。

就業規則がなくても、指針の例に、社内報等への記載・配布や、マニュアル等への記載・周知があります。

懲戒には、就業規則であらかじめ種別と事由を定め、周知しておくことが要ります(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。10人未満の事業場でも、就業規則の作成が望まれるとされています(広島労働局「就業規則 ポイント1・2」)。

私は、就業規則が無い会社には、まず会社の方針と対処の手順を文書にまとめ、全員に説明することを勧めます。そのうえで、就業規則を作ることを勧めます。作成の義務が無くても、ルールを文書にして全員が知っている状態にすることが、従業員と会社の両方を守ると考えているからです。

措置を講じていないと、施行日以降は助言・指導・勧告の対象になる

厚生労働省の通達に、措置義務の適用を遅らせる経過措置の記載はありません。令和8年10月1日以降、措置を講じていない場合は、助言・指導・勧告の対象になります(労働施策総合推進法第42条)。公表や20万円以下の過料は、義務化の全体像の記事にまとめています。

根拠労働基準法第89条・第90条・第106条、労働基準法施行規則第6条の2、通達 p.13・p.28、パンフレットNo.22 p.40、モデル就業規則(令和7年12月版)p.3〜4

自社がいま、どこまでできているかは、どう確かめればよいでしょうか。

SECTION 06

まとめ:規定は手段の1つ。周知と運用までそろえて措置になる

指針が就業規則等への規定を例に挙げているのは、不利益な取扱いをされない旨と、懲戒の2点です。方針、対処の内容、相談窓口、悪質な事案への体制は、規定を書くだけでなく、周知と運用がそろって初めて措置になります。

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SECTION 07

よくある質問(FAQ)

Q1. カスハラ対策は、就業規則に必ず書かなければなりませんか?

A. 一律には求められていません。不利益な取扱いをされない旨は、定めて周知・啓発することが義務で、就業規則等への規定と、社内報等への記載・配布のどちらも指針の例です。自社の従業員が行為者の場合の懲戒は、望ましい取組です(カスハラ防止指針4(5)ロ・5(2))。

Q2. 懲戒の規定に、カスハラを新しく書き加える必要はありますか?

A. 既存の懲戒規定で必要な措置を講ずることが可能なら、新たに設ける必要は必ずしもありません(厚生労働省の解釈事項 問19)。自社の懲戒の事由で、取引先等への言動が読めない場合、懲戒をするには規定が要ります。

Q3. 厚生労働省の規定例や、この記事の作成例は、そのまま自社の規程に使えますか?

A. 自社に合わせて直します。厚生労働省の規定例も、対処の内容について、自社にあったマニュアル等の整備が要るとしています。当法人の作成例も案で、判断する者の役職などは会社が決めます。

Q4. 厚生労働省のカスハラ規程のひな形(規定例)は、どこにありますか?

A. 厚生労働省のハラスメント対策パンフレットNo.22 の対応例(p.40〜47)にあります。モデル就業規則(令和7年12月版)には、カスハラの条文はありません。Word 形式は、山形労働局の規定例のページにあります(いずれも令和8年9月27日確認)。

Q5. 従業員10人未満で就業規則がない会社も、カスハラ対策は必要ですか?

A. 必要です。就業規則の作成・届出の義務がなくても、措置は同じように講じます。方針や対処の内容は、社内報やマニュアル等に記載して周知する方法があります。自社の従業員が行為者になった場合に懲戒をするには、就業規則で種別と事由を定めておくことが要ります。

特定社会保険労務士 溝口 学

この記事を書いた人

溝口 学代表 特定社会保険労務士

アイビー社会保険労務士法人(福岡市博多区)

累計3万件超の労務相談に対応。就業規則・ハラスメント防止規程の作成と改定を、全国の中小企業からオンラインで受けています。