この給与だと最低賃金に抵触しますか?

山田社長
溝口さんこんにちは。今日は事務職の給与のことでちょっとお聞きしてもいいですか?
溝口
山田社長こんにちは。もちろんです、どんなことでしょう?
山田社長
確か10月から最低賃金がまた上がっていますよね。
溝口
そうですね、福岡県では10月1日から814円になっています。それ以前が789円ですから今年も25円の大幅アップとなりました。
山田社長
実は、昨年10月に中途入社した事務職のAさんの給与が、最低賃金を割り込むんじゃないかと、うちの給与計算担当者のBさんが言ってきているんですよ。
ただ、Aさんには毎月17万円以上支給しているので、大丈夫だと思うのですが・・
溝口
なるほど、Aさんの給与はどんな内訳になっていますか?
山田社長
こんな内訳です。
基本給 135,000円
職務手当 5,000円
皆勤手当 5,000円
固定残業代 21,000円
通勤手当 5,000円
支給総額 171,000円
溝口
確かに支給総額を御社の月平均所定労働時間の173時間で割ると約988円になりますね。ただ、最低賃金の対象となる賃金から、除外しないといけない手当があります。
【最低賃金の対象となる賃金】
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。

(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

溝口
Aさんのケースでは、皆勤手当、固定残業代、通勤手当は除外して計算する必要があります。
山田社長
え!そうなんですか?じゃ基本給と職務手当の合計140,000円を173時間で割った金額を最低賃金と比較するということ?
溝口
そのとおりです。そうするといくらになりますか?
山田社長
えーと、809円ですね・・あっ確かに5円足りない!
溝口
職務手当は賃金規程で支給基準が決まっていますので、基本給を少なくとも865円以上、上げる必要があります。
山田社長
わかりました。彼女はとても頑張ってくれてるし、ちょうど今月は定期昇給の月でもあるので5,000円アップとします。
溝口
わかりました。ところで、Aさんと取り交わしている雇用契約書では、固定残業代に含まれる残業時間を月20時間としていましたよね。
基本給を5,000円昇給すると割増賃金の計算基礎も上がるため、月20時間分の固定残業代21,000円だと少し足りなくなります。
山田社長
そうですか・・?、ちょっとまってくださいよ溝口さん!昇給した基本給と職務手当の合計は145,000円なので、割増賃金の単価(145,000円÷173時間×1.25)は1,048円でしょ?それなら1,048円×20時間で20,953円となるのでギリギリ大丈夫なのでは?
溝口
いえ、先ほど最低賃金の対象となる賃金から皆勤手当は除いて計算したのですが、割増賃金の計算基礎から皆勤手当を除くことはできないんですよ。
「割増賃金の基礎となる賃金」から除外できるもの
割増賃金の基礎となるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」です。
例えば月給制の場合、各種手当ても含めた月給を、1か月の所定労働時間で割って、1時間当たりの賃金額を算出します。
このとき、以下の(1)~(7)は、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどにより、基礎となる賃金から除外することができます。

(1) 家族手当
(2) 通勤手当
(3) 別居手当
(4) 子女教育手当
(5) 住宅手当
(6) 臨時に支払われた賃金
(7) 1か月を超える期間ごとに支払われた賃金

上記(1)~(7)は、例示ではなく、限定列挙されているものです。従って、これらに該当しない賃金は全て算入する必要があります。

溝口
したがって、基本給+職務手当+皆勤手当の合計150,000円が割増賃金の計算基礎となります。そうすると割増単価は1,084円となり21,000円を超えてしまいます。
山田社長
うーむ・・ではどうしたらいいですか?
溝口
固定残業代に含ませる残業時間を20時間のままとするなら、昇給原資5,000円を基本給に4,000円、固定残業代に1,000円というふうに割り振る必要がありますね。
もう一つは、残業時間の削減努力をしながら、固定残業代に含ませる時間も減らしていくというのはどうでしょうか。
山田社長
そうですね、当社も効率良く働いて生産性を上げながら労働時間を削減していく方針なので、後者の方向で検討します。
ところで、当社の給与は15日締めの当月25日払いです。最低賃金が適用されるのは10月1日からの賃金ですよね。となると9/16~9/30までは改定前の賃金、10/1~10/15までは改定後の賃金と分けても良いのですか。
溝口
月給者の場合は10月支給分の給与からまるっと改定後の賃金で支給するケースがほとんどですね。時給や日給の場合は分けて計算することもありますが、給与計算システムが同一給与計算期間内で時給を変えられないものが多いですから、かなり煩雑な手作業が発生しますよ。分けずに全て改定後の時給で計算するのが主流ではないかと思います。
山田社長
なるほど、良く分かりました。
それにしても最低賃金はここ数年ずっと二桁上昇していますね。何か注意することありますか。
溝口
2017年3月に公表された安倍政権が推進する「働き方改革実行計画」によると、今後も年3%程度を目途に引上げ、これにより全国加重平均で1,000円を目指すと明記しています。
そのため、Aさんのように最低賃金付近の基本給の社員については、今後毎年のように見直しが必要になる可能性がありますので注意してください。
溝口労務管理事務所では、chatworkを利用した労務相談に対応しています。上記は実際に受けた相談の一部を加工整理したものです。参考にしていただければ幸いです。

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