企業側からみた「短時間正社員」制度導入のメリット・デメリット

はじめに

最近、正社員採用の求人を出しても、なかなか応募が来ないというお悩みありませんか。
急速に少子超高齢化が進む日本では、今後フルタイムでバリバリと働ける労働者は減少し、求職者の就業ニーズも多様化すると予想されます。こうした働き方の多様化が進む中で注目を集めているのが「短時間正社員制度」です。
この制度は、従来のフルタイム勤務とは異なる柔軟な働き方を可能にし、企業と従業員の双方にメリットがあります。ただし、導入にあたっては慎重な検討が必要です。本記事では、企業側、特に中小企業の立場で短時間正社員制度のメリットとデメリットについて、社会保険労務士の視点から詳しく解説していきます。
多様な人材の活用や生産性向上を目ざす中小企業の皆様にとって、有益な情報となれば幸いです。

「短時間正社員制度」とは

短時間正社員制度とは、通常のフルタイム正社員と比較して、週の所定労働時間が短い正社員を指します。具体的には、以下の条件を満たすものを指します。

  1. 期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結していること
  2. 時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が、同種のフルタイム正社員と同等であること

この制度は、育児や介護、自己啓発など、さまざまな理由でフルタイム勤務が困難な従業員に対して、柔軟な働き方の選択肢を与えることを目的としています。

短時間正社員制度の勤務パターン

短時間正社員の勤務形態としては以下のようなパターンが考えられます。

  • 1日の勤務時間を短くする(例:朝9時から午後3時まで働く)
  • 週の勤務日数を減らす(例:週に3日だけ働く)
  • 1日おきに出勤する
  • 交代制勤務の職場で、日勤のみ(または夜勤のみ)の勤務とする
  • 短時間勤務と時間を自由に決められるフレックスタイム制を組み合わせる

勤務パターンは、企業の業種・業態、従業員のニーズに応じて柔軟に設計することができます。

企業側からみた「短時間正社員制度」のメリット・デメリット

次に企業側から見たメリットとデメリットについて解説します。

メリット

フルタイムで働けない意欲・能力の高い優秀な人材の確保

出産・育児、親の介護、自己啓発といった理由でフルタイムでは働けないものの意欲、能力の高い多くの人材が、実は短時間正社員の求人条件を探しています。そうしたニーズに合致すれば、採用に苦戦している企業にとっては良い人材の採用機会につながります。最近では、求職者が求人検索する際に「短時間正社員」や「時短正社員」といったキーワードを含めるケースが増えています。また、しゅふJOB総研の調査によれば、短時間正社員で働いてみたいと思う働く主婦は77.2%となっている一方、「短時間正社員制度を設けている企業が少ない」89.6%と、まだまだ短時間正社員制度を導入している企業自体が少ないことが指摘されています。これは、ワーク・ライフ・バランスを重視する切実なニーズが高まっていることを示しています。

フルタイムでは働けない従業員の定着率・職場満足度の向上(離職防止)

ワーク・ライフ・バランスを実現できる環境を整備することで、従業員の満足度を高め、定着率の向上につながります。育児・介護といったライフステージの変化に合わせた働き方を選択できることで、キャリアの中断を避けられることは職場への満足を高めます。企業にとっても知識や技能が熟練した社員に短時間勤務の選択肢を用意することで、長期的な雇用が可能となり、サービスレベルの維持や若手への技術伝承がスムーズに行えます。
さらに、パートタイム労働者に対して短時間正社員への転換制度を設けることで、モチベーションの向上や職場への定着を促進することができます。こうした効果は、組織全体の活性化にもつながります。

業務の効率化と生産性の向上

労働時間に応じた適切な目標設定や評価を行うことで、従業員のモチベーションと生産性を向上させることができます。短時間勤務という制約は、むしろ以下のような業務の効率化を促進する要因となる可能性があります。

  • 時間当たりの生産性向上:限られた時間内で成果を出すために、業務の優先順位付けや効率化が進む
  • 会議・打ち合わせの効率化:短時間勤務者の参加を考慮し、会議の目的や進行方法が見直される
  • ITツールの積極的活用:情報共有や遠隔での業務遂行のため、クラウドサービスやコミュニケーションツールの活用が進む
  • 業務の可視化・標準化:短時間勤務者との業務引き継ぎを円滑に行うため、業務プロセスの可視化や標準化が進む

こうした取り組みは、短時間正社員だけでなく、組織全体の生産性向上にも寄与します。

企業イメージの向上

多様な働き方を認める企業として企業イメージの向上につながり、次のような効果が期待できます。

  • 採用活動の強化:働き方の柔軟性が高い企業として認知されることで、優秀な人材の応募が増える
  • 顧客からの信頼向上:多様性を尊重する企業として、顧客からの信頼度が高まる
  • メディア露出の増加:先進的な取り組みとして、メディアに取り上げられる機会が増える

こうした効果は、直接的・短期的な収益向上には結びつきにくいものの、中長期的には企業価値の向上につながる効果が期待できます。

労働関係法令などの改正への円滑な対応

例えば労働契約法では、有期労働契約が通算で5年を超えて更新された場合には、労働者からの申込みにより、無期労働契約に転換するルールが設けられています。無期転換した社員に、転換前よりも高い成果を期待するには、職務内容等の見直しとあわせて処遇改善を図っていくことが考えられます。こうした社員に勤務時間の制約がある場合には、短時間正社員制度が有効な選択肢となります。

短時間正社員制度を活用することで、以下のような対応が可能になります

  • 柔軟な雇用形態の提供:無期転換後も、従業員のニーズに合わせた多様な働き方を提供できる
  • キャリアパスの明確化:短時間正社員としてのキャリアパスを設定し、モチベーション向上につなげる
  • 処遇改善の実現:労働時間は短縮しつつ、責任や権限を拡大することで、適切な処遇改善が可能になる
  • 人材の有効活用:業務内容や勤務時間を柔軟に設定することで、個々の従業員の強みを最大限に活かせる

デメリット

労働者間に不公平感が生じる可能性

短時間正社員制度の導入により、フルタイム正社員との間に不公平感が生じる可能性があります。具体的には以下のような点が懸念されます。

  • 業務負担の偏り:短時間勤務者の不在時にフルタイム勤務者の業務負担が増加し、不満が生じる可能性
  • 評価基準の差異:短時間勤務者とフルタイム勤務者の評価基準が異なる場合、公平性の観点から問題が生じる可能性
  • キャリア形成への影響:短時間勤務によってキャリア形成の機会が制限される可能性があり、長期的なキャリアパスに影響を与える可能性

これらの問題を回避するためには、公平性を考慮した処遇や評価制度の構築、業務分担の仕組み作りが不可欠となります。

残業命令は限定的となる

短時間正社員に対して残業を課すことは、制度の趣旨に沿わない可能性があります。これにより以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 業務の遅延:繁忙期や締め切りが迫っている際に、柔軟な対応が難しくなる可能性
  • 職場内の連携不全:他の従業員との時間外のミーティングや協働作業が難しくなる可能性
  • 緊急時対応の遅延:突発的な問題や緊急事態への対応が制限される可能性

この問題に対処するためには、業務の優先順位付けや効率化、対面ミーティングにこだわらずにチャット等で協働する等、職場内のコミュニケーション強化が必要となります。また、そもそも正社員も含めて時間外労働自体を減らす取り組みを並行して行う必要があるでしょう。

人件費の増加

短時間正社員は、パートタイム労働者と比較して、社会保険料の負担や賞与・退職金の支給など、企業側のコスト負担が大きくなる可能性があります。具体的には以下のような点が挙げられます。

  • 社会保険料の事業主負担:短時間正社員は社会保険の加入対象となるため、事業主負担が増加
  • 賞与・退職金の支給:フルタイム正社員と同等の待遇を提供する必要があるため、これらの費用が発生
  • 時間当たり人件費の上昇:短時間勤務でありながら、正社員としての待遇を維持するため、時間当たりの人件費が上昇する可能性

こうしたコスト増加のデメリットと、長期的な人材確保や生産性向上のメリットをバランスさせる検討が必要となります。

運用管理コストの増加

短時間正社員の勤務時間や勤務日数、仕事内容などを適切に管理する必要があり、新たな業務負担や管理コストの増加につながる可能性があります。具体的には以下のような点が挙げられます。

  • 勤怠管理システムの改修:短時間勤務に対応した勤怠管理システムの導入や改修が必要となる可能性
  • 人事評価制度の見直し:短時間勤務者に適した評価基準の設定や運用が必要となる
  • 業務分配の最適化:短時間勤務者の勤務時間に合わせた効率的な業務分配が求められる

こうした課題に対処するためには、ITシステムの活用や人事部門の体制強化が必要となる可能性があります。

制度の複雑化

短時間正社員制度を導入することで、企業内の雇用形態や人事制度が複雑化し、運用が煩雑になる可能性があります。具体的には以下のような点が懸念されます。

  • 就業規則の改正・追加:短時間正社員に関する規定を追加する必要があり、既存規定の改正も合わせて整合性を図ることも必要
  • 給与体系の複雑化:短時間正社員の給与体系を新たに設計する必要があり、既存の給与体系との調整が必要
  • キャリアパスの多様化:短時間正社員のキャリアパスを新たに設計する必要があり、既存のキャリアパスとの整合性を図る必要

これらに対処するために、人事制度の見直しや、従業員へのていねいな説明が必要になります。

「短時間正社員制度」を導入する手順

短時間正社員制度の導入は、以下の手順を参考に計画的に進める必要があります。

導入目的の明確化

社員のニーズ、人員構成、事業・人材活用戦略を考慮し、自社の課題を明確にし、必要に応じて以下のことも実施します。

  • 社員へのインタビューやアンケート調査の実施:現場の声を直接聞くことで、実態に即した制度設計が可能になります。
  • 他社事例の調査:同業他社や先進企業の事例を調査し、自社に適用可能な要素を抽出します。

期待する役割の検討

対象者や目的別に、労働時間に応じた職務内容、適用期間、労働時間を等以下の内容を検討します。

  • 対象者の明確化:育児・介護中の社員、高齢者、自己啓発中の社員など、対象となる社員の基準を明確にします。
  • 職務内容の再設計:短時間勤務でも成果を出せるよう、業務の優先順位付けや分担の見直しを行います。
  • 適用期間と労働時間の設定:対象者のニーズと業務の特性を考慮し、適切な期間と時間を設定します。

労働条件の検討

人事評価、賃金、教育訓練など、フルタイム正社員との均衡を図りつつ、短時間勤務であることを考慮します。以下の点に注意が必要です。

  • 公平な評価制度の構築:短時間勤務者の成果を適切に評価できる基準を設定します。
  • 賃金体系の見直し:労働時間に応じた賃金設定と、フルタイム正社員との均衡を考慮します。
  • 教育訓練機会の確保:短時間勤務者にもキャリア形成の機会を提供します。
  • 就業規則への明記:制度の詳細を就業規則に明記し、法的な裏付けを確保します。

フルタイム正社員への復帰・転換の検討

導入目的や対象者に応じて、復帰・転換の制度設計を行います。以下の点を考慮します。

  • 復帰・転換の条件設定:対象者の状況変化に応じて、柔軟に対応できる条件を設定します。
  • キャリアパスの明確化:短時間正社員からフルタイム正社員へのキャリアパスを示し、従業員のモチベーション維持を図ります。

制度導入と周知

制度の内容をパンフレットやマニュアルで周知します。効果的な周知方法は以下のとおりです。

  • Q&A集の作成:想定される質問とその回答をまとめ、従業員の理解を促進します。
  • 社内報の活用:制度の概要や利用者の体験談を掲載し、制度の浸透を図ります。
  • 管理職向け研修の実施:制度運用の要となる管理職に対し、適切な運用方法を指導します。

まとめ

短時間正社員制度が円滑に運用されるためには、制度利用者だけでなく、管理職や周囲の社員の理解と協力が不可欠です。制度の内容や目的を十分に周知し、「お互い様」という意識を会社組織として醸成していくことがとても重要ですまた、短時間正社員であっても、長期的なキャリアプランを描けるよう、適切な教育訓練や自己啓発の機会を提供するなどの支援を行うことで、制度のメリットを労使双方が感じられるようになるかと思います。
制度導入後も定期的な見直しと改善を行い、社会状況や従業員のニーズの変化に対応していく必要があります。短時間正社員制度の導入を検討している場合は、他社事例も参考に、自社にとって最適な制度を設計・運用していくことを目指しましょう。制度導入にあたりご支援が必要な場合は、導入実績豊富なアイビー社会保険労務士法人にぜひお気軽にご相談ください。