はじめに
人手不足が深刻化する中、優秀な人材を確保し、育成することは中小企業にとって喫緊の課題となっています。正社員を募集してもなかなか採用できないという企業は、これまでのようにフルタイム正社員を外部から募集するという採用方法以外に、今いるパートさんを短時間正社員に登用してフルタイム並みに戦力化するという選択肢もあることを理解してください。
短時間正社員制度導入のメリット・デメリットについては過去記事でもご紹介しましたが、短時間正社員をうまく活用すれば人手不足の解消だけではなく、組織全体の活性化につなげることも可能です。今回は、短時間正社員制度の導入に合わせて活用したい国の助成金である、キャリアアップ助成金に焦点を当て、その概要やメリットについて解説していきます。
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者など)のキャリアアップを支援するための助成金制度です。この制度を活用することで、正社員化や処遇改善といった取り組みを積極的に行うことができ、企業は助成金を受け取ることができます。
年間10万人がこの助成金の対象となっているともいわれており、非常に多くの企業で活用されています。さらに令和5年11月に制度が拡充され、受給額が大幅に増えたこともあり、今もっとも注目されている助成金です。
この助成金制度は、非正規労働者のキャリアアップを促進し、非正規雇用から正規雇用への転換を推進することで、雇用の安定と労働者の処遇改善を同時に実現することを目的としており、企業にとっても増大する人件費の一部を助成金でまかなえるというメリットがあり、広く活用されています。
キャリアアップ助成金を活用するメリット
人材の定着率向上
非正規雇用労働者の待遇が改善されることで、企業への愛着や働く意欲が高まり、定着率の向上が期待できます。正社員化や処遇改善により、従業員は将来のキャリアパスを明確に描くことができ、長期的な視点で仕事に取り組むようになります。
企業イメージ向上
非正規労働者のキャリアアップや正社員化を支援し実績が増えれば、従業員のキャリアアップに積極的に取り組む企業としてのイメージが定着し、優秀な人材の獲得につながります。就職活動中の学生や転職を考えている社会人にとって、従業員のキャリア発展を支援する企業は魅力的にうつります。
生産性向上
現在パート等ではたらく従業員にとっても、正社員登用や人材育成への仕組みが制度として明確になっていれば、モチベーション向上やスキルアップにより、生産性の向上が期待できます。正社員として長期的な視点で仕事に取り組むことで、業務の効率化や改善提案が活発化し、組織全体の生産性が高まります。
人材採用・育成コストの削減
既存の非正規雇用労働者を正社員化することで、新規採用にかかるコストや時間を削減できます。また、業務に精通した人材を正社員として登用することで、即戦力として活躍してもらえます。また受給した助成金は次の人材採用や育成コストに充てることもでき、良好な職場環境づくりの好循環に繋げやすくなります。
正社員化コース受給までの大まかな流れ
キャリアアップ助成金を活用するための大まかな流れは以下の通りです。
1.キャリアアップ計画の作成と提出
まず、事業主は3年以内に取り組む予定のキャリアアップに関する計画を作成し、管轄の労働局に提出します。この計画には、正社員化の目標や取り組み内容などを記載します。
2.就業規則の整備
正社員化に伴い、就業規則の変更が必要な場合は、労働基準監督署に届け出を行います。
3.対象労働者の正社員化
計画に基づいて、対象となる非正規雇用労働者を正社員に転換します。この際に労働条件の変更について本人の同意を得るため新たな雇用契約書を取り交わすことが重要です。
4.支給申請
正社員化後6か月継続雇用し、6か月目の賃金支払日から2か月以内に、必要書類を揃えて管轄の労働局に支給申請を行います。
5.審査・支給決定
ハローワークでの審査を経て、要件を満たしていると認められれば概ね半年から1年度で支給決定となり助成金が支給されます。
助成額
有期雇用労働者等を無期雇用労働者に転換した場合 40万円(20万円×2期)
1年度1事業所当たりの支給申請上限人数20名(同一対象者の2回目の申請を除く)
短時間正社員制度導入で40万円が加算
キャリアアップ助成金の正社員化コースにおいては、いくつかの加算制度があります。
そのうちのひとつである、多様な正社員制度導入の加算は、短時間正社員制度を含めを導入した場合の加算措置です。この制度を新たに導入し、対象労働者を短時間正社員に転換した場合、1企業あたり1回に限り40万円(大企業は30万円)が加算されます。多様な正社員制度導入の加算制度の詳細は以下のとおりです。
- 事業主は、キャリアアップ計画書に記載された同一のキャリアアップ期間中に、勤務地限定正社員制度、職務限定正社員制度または短時間正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換する必要があります。
- 対象労働者より前に同様の転換制度の利用者がいる場合は、加算の対象となりません。
- 多様な正社員制度導入の加算を受ける場合、事業主は、多様な正社員制度(雇用区分(勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員)および労働条件)を就業規則または労働協約に、当該転換制度を就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定している必要があります。
上記に加え、以下の要件も満たしている必要があります。
- 対象労働者を正規雇用労働者に転換する制度を就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定していること
- 上記の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者等を正社員化した事業主であること
- 正社員化された労働者を、正社員化後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して正社員化後6か月分の賃金を支給した事業主であること
- 正社員化後6ヶ月の賃金を、正社員化前6ヶ月の賃金より3%以上増額させている事業主であること
- その他、正社員化コースの要件を満たしていること
「多様な正社員制度」以外に一定の条件を満たした場合は、以下①~④の加算も同時に受けることができます。
まとめ
キャリアアップ助成金は、企業の人材戦略を強力にサポートする制度です。非正規雇用労働者のキャリアアップを促進し、企業の成長につなげることができます。特に、短時間正社員制度の導入は、多様な働き方を求める人材の確保・定着に効果的であり、助成金も活用できるため、検討する価値が高いと言えます。自社の状況に合わせて以下のメリットを念頭にキャリアアップ助成金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
- 人材確保・定着の課題解決策として活用
- 多様な正社員制度の導入による組織の活性化
- 助成金を活用した人材育成・処遇改善の推進
- 短時間正社員制度導入による40万円の追加助成の活用
キャリアアップ助成金を上手く活用することで、企業の競争力強化と従業員の満足度向上を同時に実現することができます。中小企業における人材戦略の一環として、ぜひ検討してみてください。
キャリアアップ助成金については、アイビー社会保険労務士法人でサポート可能です。活用方法のアドバイスも含めてぜひお気軽にご相談ください。