皆勤手当は比較的多くの中小企業で支給している手当です。やはり限られた人員で業務をやり繰りする必要上、皆勤手当を無遅刻無欠勤へのモチベーションとしたい経営者が多いのだろうと思います。
就業規則には「皆勤手当は、当該賃金計算期間において遅刻・早退・欠勤がなかった者に対して、月額○円を支給する。」というような規定を置くのが一般的かと思います。
この場合、有休を使ったため実勤務が無かった場合を欠勤と捉えて、皆勤手当を支給していないケースもあります。ただ、労働基準法附則136条では、「使用者は、第39条第1項から第4項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と定めており、上記のような皆勤手当の不支給は問題とならないのでしょうか。
年次有給休暇の取得に対する不利益取扱いをめぐって争われた判例では、平成5年6月25日の最高裁判決:沼津交通事件が有名です。この判決では、年休を取得したタクシー会社の乗務員に対する皆勤手当の不支給が、年休権行使を妨げるか否かの判断基準として、「その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度」等を挙げています。これらの状況を総合して年休取得権の行使を抑制するものではないかぎり、公序に反する無効なものとはいえないとしました。
この事件で争われた皆勤手当の額は月4,100円で、欠勤1日で半額、2日以上で不支給とするものでした。(給与月額の最大1.85%)
もう一つ有名な事件として、日本シェーリング事件(最高裁判決:平成元年12月14日)があります。こちらは、年休を含め不就労を除外して稼働率を算定した結果、80%以下の者を昇給対象から除外するという制度を巡って争われた事件です。
有休取得によって昇給に影響を与え、ひいては退職金にまで影響を及ぼすもので、経済的不利益が大きく、年休権行使を抑制し、法の趣旨を実質的に失わせるものとして公序に反して無効と判断されました。
この2つの判決は、経済的影響の程度で結論が分かれていますので、賃金に占める皆勤手当の割合が僅かである場合は、有休取得によって皆勤手当を不支給とする制度も有効と判断される余地はあります。しかし、そもそも皆勤手当を支給する趣旨から考えると、支給割合が低すぎては皆勤のモチベーションとなりにくいかと思います。
よって、私が考える実務的な取扱いとしては、有給休暇の取得ルールを定めるのが有効かと思います。
第〇条 従業員が年次有給休暇を取得するときは、原則として〇日前までに所定の手続により、会社に届け出なければならない。
このような場合は会社の承認により、欠勤ではなく有給に振り替える余地を残すという趣旨の規定です。ただ、このような突発的な有休取得が当たり前のように行われると会社の規律が維持できません。予定外の欠勤によりその穴を埋める他の従業員の負担も考慮すると、何らかの抑止策を講じる必要があるかと思います。
その抑止策として、このように本来欠勤と扱うべきところを、有休に振り替えたような場合は、皆勤手当の減額もやむを得ないのではないかと私は考えます。
また、付与ルールを検討するにあたっては、実施的に年休行使権を抑制することにならないように留意する必要があります。
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