労使慣行を回避する方法

社員へのご褒美は、社長の善意であっても慣例化を回避するために「今回限り」という断りが重要となります。

多くの職場では就業規則に書かれていないことが、いつの間にか当然のように行われていることがあります。

たとえば、就業規則には退職金が規定されていないものの、退職する社員にはほぼ勤続年数に応じた退職金が支払われており、それを社員もうすうす知っているような場合です。
就業規則には明確な定めがないものの、その会社で長年にわたり行われているような習慣のことを労使慣行といいます。

労使慣行とは
労使慣行は、労働協約や就業規則に基づかない、労働条件や職場規律に関する労使間の事実上のルールです。
労働契約の内容を補充する効果や、労働協約や就業規則の不明確な規定を解釈するための基準、具体的な運用基準としての効果などを持つとされています。

あるとき、社長が就業規則にも記載がないからと、即刻そうした取扱いを廃止したいと思たったとします。はたしてそれは可能でしょうか。

結論から申し上げると、就業規則に規定がないことでも、それが一定の労使慣行にまでなっている場合は、労働者に不利益なかたちで一方的に廃止することはできないと考えられます。

労使慣行は労使の合意となり、どんなことであれ長期間にわたって継続的に実施されていることは、労使慣行となりえます。
たとえば、先述した退職金の支払いがいつから始まったのかは分かりませんが、いつからか上司も部下も退職時に退職金が支払われるのは当然だという意識が生まれ、いわば公然のこととなってる状況です。

ポイントは、「労使ともに」そのような認識をもつ状況になっていることです。

労使慣行をめぐるトラブルでは最高裁判決があります。
「商大八戸ノ里ドライビングスクール事件」で、最高裁は労使慣行の成立要件として

労使慣行の成立要件
(1) 同種の行為または事実が長期間反復継続されていること
(2) 当事者が明示的にこれを排斥していないこと
(3) 当該労働条件に関し、決定権限を有する者が規範意識を有していること

の3点を示しました。

もう少し分かりやすくいうと

(1) あることが長期間に継続して繰り返されていること
(2) 会社も従業員もその慣行を当然と思っていてあえて否定はしていないこと
(3) とくに社長や管理職がその慣行に肯定的な意識を持っていること

さらにこの要件を満たしているか否かは「諸般の事情を総合的に考慮して決定すべきもの」としています。

こうした要件を満たすとそれは労使慣行となり、労働協約や就業規則には基づかないものの、法的には労使間の事実上のルールとなります。したがってこのルールを廃止する場合は、就業規則の不利益変更と同様の対応が必要です。
つまり、従業員に対してその旨を通告し、廃止することについて理解を得るための努力が必要になるということです。

労使慣行は、使用者側の善意・厚意から始まることが多いです。
例えばそれまで無かった決算賞与や報奨金、臨時の昇給などもそうです。ただ、そうしたことが一度行われると、従業員は翌年もその次もと期待します。

会社の対策としては、何かを継続するかどうか分からない臨時的な措置として実施する場合は、「今回限り」だという趣旨を明確に伝えるべきです。

結論として、社員へのご褒美は、社長の善意であっても慣例化を回避するために「今回限り」という断りが重要となります。

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