従業員からの年休買い上げ要求に応じる必要がありますか?

山田社長
こんにちは、溝口さん。今日は年休のことでちょっと聞いてもいいですか?
溝口
山田社長、こんにちは。もちろんです、年休のどんなことでしょう?
山田社長
実はうちの営業のAさんが年休の買取りについて質問してきたんですよ。
溝口
あのモーレツ社員(死語!?)のAさんですか?確かに年休使ってなさそうですね・・
山田社長
そうなんですよ。私も普段から取るように促してはいるんですが全く使ってなくて・・。それで「自分は年休いらないので買い取って欲しい」というんですよね。
溝口
なるほど、それもわかるような気もしますが、年休を買い取るのは原則として違法です。
山田社長
え!違法なんですか!?
溝口
はい、年休の法的趣旨は、労働者の心身の疲労回復や労働力維持を図ることですので、現実に休ませる必要があるんですよ。したがって年休を与える代わりに買い取ってしまうと労基法39条違反となります。
年次有給休暇の買上げ
有給休暇制度の趣旨は労働者の心身の休養を図るということにあり、特に、法定内の日数については有給休暇の買上げは認めることはできない。「有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて(略)日数を減じ、ないし、請求された日数を与えないこと」は、労働基準法第39 条違反である。

【昭30.11.30 基収4718 号】

山田社長
でも「原則として」というからには、例外もあるんですよね・・?
溝口
はい、例外として次の場合は買上げも認められています。
有給休暇の買上げが認められる3つのケース
①権利が発生してから2年が経過し時効が成立した年休
②退職時に未消化のまま残った年休
③法定付与日数を超えて年休を与えている場合の超えた部分の年休
溝口
これらの例外の場合でも、会社に買い上げる「義務」まではありません。また、予め買い上げを予約したり、買い上げ単価を高く設定したりすると、結果として年休の取得を妨げることになりますのでNGです。
山田社長
なるほど、ではAさんの要望にこたえて、まだ時効になっていない年休を買い上げたり、「時効になったら買い上げるよ」と約束するのもダメなんですね。
溝口
そのとおりです。やはり会社としても年休が取得しやすいような仕組みを整備するのが良いかと思います。具体的には、年休の計画的付与というものが認められています。
年休の計画的付与とは
年次有給休暇のうち5日を超える分については、労使協定を結べば計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度のことをいいます。
例えば、年次有給休暇の付与日数が10日の従業員に対しては5日、20日の従業員に対しては15日までを計画的付与の対象とすることができます。
なお、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。

導入に当たっては、次のような方法の中から会社の実態に応じた方法を選択することになります。

①企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与
②班・グループ別の交替制付与
③年次有給休暇付与計画表による個人別付与

溝口
特に③の個人別付与方式は、誕生日や結婚記念日など従業員の個人的な記念日を優先的に充てるケースも多く、うまく活用すれば従業員のモチベーション向上にもつなげられるかと思います。
山田社長
なるほど、当社も働き方改革として何をやったら良いのか迷っていたけど、こんなことならすぐにできそうだな。それに計画付与なら、さすがのAさんも有休を取らざるを得ないだろうから!
溝口
来年4月からはすべての会社で、10日以上の年休が与えられている従業員について、年間5日以上の年休取得が罰則付きで義務化されます。
Aさんのような従業員を放置しておくと、会社は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられる恐れもあります。まあ、罰則はともかく、人手不足のなか従業員の定着率向上のためにも対策を講じるなら早めの方が良いと思います。
溝口労務管理事務所では、chatworkを利用した労務相談に対応しています。上記は実際に受けた相談の一部を加工整理したものです。参考にしていただければ幸いです。

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