令和7年9月5日に緊急拡充された業務改善助成金のわかりやすい解説

1.はじめに

令和7年度の最低賃金の答申結果がでそろいました。
全国加重平均額の引き上げ額は、66円と昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額となりました。

都道府県名 改定前(円) 改定後(円) 引上げ額(円) 引上げ率 発効(予定)日
北海道 1,010 1,075 65 6.4% 2025/10/04
青森 953 1,029 76 8.0% 2025/11/21
岩手 952 1,031 79 8.3% 2025/12/01
宮城 973 1,038 65 6.7% 2025/10/04
秋田 951 1,031 80 8.4% 2026/03/31※
山形 955 1,032 77 8.1% 2025/12/23
福島 955 1,033 78 8.2% 2026/01/01
茨城 1,005 1,074 69 6.9% 2025/10/12
栃木 1,004 1,068 64 6.4% 2025/10/01
群馬 985 1,063 78 7.9% 2026/03/01
埼玉 1,078 1,141 63 5.8% 2025/11/01
千葉 1,076 1,140 64 5.9% 2025/10/03
東京 1,163 1,226 63 5.4% 2025/10/03
神奈川 1,162 1,225 63 5.4% 2025/10/04
新潟 985 1,050 65 6.6% 2025/10/02
富山 998 1,062 64 6.4% 2025/10/12
石川 984 1,054 70 7.1% 2025/10/08
福井 984 1,053 69 7.0% 2025/10/08
山梨 988 1,052 64 6.5% 2025/12/01
長野 998 1,061 63 6.3% 2025/10/03
岐阜 1,001 1,065 64 6.4% 2025/10/18
静岡 1,034 1,097 63 6.1% 2025/11/01
愛知 1,077 1,140 63 5.8% 2025/10/18
三重 1,023 1,087 64 6.3% 2025/11/21
滋賀 1,017 1,080 63 6.2% 2025/10/05
京都 1,058 1,122 64 6.0% 2025/11/21
大阪 1,114 1,177 63 5.7% 2025/10/16
兵庫 1,052 1,116 64 6.1% 2025/10/04
奈良 986 1,051 65 6.6% 2025/11/16
和歌山 980 1,045 65 6.6% 2025/11/01
鳥取 957 1,030 73 7.6% 2025/10/04
島根 962 1,033 71 7.4% 2025/11/17
岡山 982 1,047 65 6.6% 2025/12/01
広島 1,020 1,085 65 6.4% 2025/11/01
山口 979 1,043 64 6.5% 2025/10/16
徳島 980 1,046 66 6.7% 2026/01/01
香川 970 1,036 66 6.8% 2025/10/18
愛媛 956 1,033 77 8.1% 2025/12/01
高知 952 1,023 71 7.5% 2025/12/01
福岡 992 1,057 65 6.6% 2025/11/16
佐賀 956 1,030 74 7.7% 2025/11/21
長崎 953 1,031 78 8.2% 2025/12/01
熊本 952 1,034 82 8.6% 2026/01/01
大分 954 1,035 81 8.5% 2026/01/01
宮崎 952 1,023 71 7.5% 2025/11/16
鹿児島 953 1,026 73 7.7% 2025/11/01
沖縄 952 1,023 71 7.5% 2025/12/01
全国加重平均 1,055 1,121 66 6.3%  
※秋田県は「発効日」について労働側から異議申立中のため変更される可能性あり

過去最大の最低賃金引き上げ、経営者はこの状況にどう対応すべきか悩みますよね。その対応の鍵を握るのが「業務改善助成金」です。
令和7年9月5日、業務改善助成金についてこれまでにない大きな拡充が突然発表されました。
この記事では、「うちの会社は、いくらもらえそうか?」が具体的にイメージできるよう、変更点をどこよりも分かりやすく徹底解説します。ぜひ最後まで読んで、この逆境をチャンスに変える一歩を踏み出してください。

2.令和7年9月5日特例は2つ

① 助成金を受けられる企業の範囲がぐっと広がったこと
② 賃上げを先に実施してからでも申請できるようになったこと
「うちは最低賃金+50円の対象者がいないから、この助成金は使えないな」とか、「うちの昇給タイミングだと間に合わないからムリだな」と思っている方は、今回の変更は見逃せません。

この記事では、令和7年9月5日発表の特例によって、業務改善助成金の何がどう変わったのか、分かりやすく具体例を交えて解説していきます。

3.令和7年9月5日特例で業務改善助成金はどうなる?

さっそく、今回の特例で何がどう変わったのか、一番大事なポイントだけを先にお伝えします。
むずかしい話はさておき、まずは「これだけは押さえておきたい!」というポイントを5つに絞りました。

①対象が拡大!改定後の最低賃金未満までOKに

これまで対象になるのは、地域の最低賃金にプラス50円以内の時給で働く労働者がいる事業場だけでした。しかし今回の特例により、改定後の新しい地域別最低賃金の金額未満であれば対象になります。
例えば、福岡県の最低賃金は令和7年11月16日から1,057円に改定される予定ですが、これまでは現在の最低賃金(992円)+50円以内の、時給1,042円までの事業所しか対象ではありませんでした。
今回発表された特例では、改定後の時給1,057円未満となる時給1,056円の事業所までが対象に含まれる、ということです。ただし、新しい最低賃金とまったく同じ金額(福岡の場合1,057円)は対象外となりますのでご注意ください。

②「賃金引上げ計画」の事前提出が不要に!「賃上げ後」の報告でOKに

従来は、賃上げをする前に「賃金引上げ計画」を労働局に提出する必要がありました。しかし、今回の特例では令和7年9月5日から、その地域の最低賃金が改定される前日までに賃上げを実施した場合は、事前に「賃金引上げ計画」を出す必要がなくなりました。例えば9月11日に賃上げをしたのであれば、事業実績報告の際に「賃上げをしましたよ」という結果の報告だけで申請ができるようになりました。

③注意!期間外の賃上げは対象外です

上記の「賃上げ後の申請」は一見かんたんそうですが、大きな注意点もあります。それは、決められた期間外に行った賃上げは、一切助成金の対象にならないということです。つまり、特例が決まった令和7年9月5日より前の賃上げについては、従来どおり「賃金引上げ計画」を提出した後の賃上げしか対象となりません。また、地域別最低賃金が発効された日以降の賃上げが対象外となるのは、特例前と同じです。

④順番が超重要!設備購入や導入は「交付決定」のあとで

これは以前から変わらない重要なルールですが、改めて強調します。助成金を使って購入する機械やシステムなどの設備は、必ず労働局に対して交付申請をし、その後労働局から「交付決定」の通知が届いた後で発注・導入してください。もし、交付決定の前に発注や購入をしてしまうと、その設備は助成金の対象外になってしまいます。
賃金引き上げ計画の事前提出が不要になったことと、交付申請が事前に必要なこととは、まったく別ですので絶対に誤解しないでください。この順番を間違えると助成金は1円も受け取れませんので必ず順番を守りましょう。

⑤見落としがち!勤務実績がない従業員は対象外

業務改善助成金は、賃金を引き上げる対象者の人数と、引き上げる額によって、支給される助成金額の上限が決まります。
ここで賃上げ対象の従業員としてカウントするには、賃上げを実施した日から、新しい最低賃金が発効される前日までの間に、その従業員の勤務実績(出勤記録)が必要です。例えば、この期間に長期休暇や育児休業等を取っていて出勤がなかった場合、その従業員は賃上げの対象人数に含めることができなくなりますので、ご注意ください。
また、事業場内最低賃金の基準となる労働者は雇い入れ後「6ヶ月以上」経過している人です。昨年までは、雇い入れ後「3ヶ月以上」の従業員が対象となっていたのですが、今年から変わっています。賃上げ対象の従業員としてカウントできる従業員にはこの雇用期間の縛りはありません。

4.「うちの会社も対象?」最低賃金と対象のボーダーライン

今回の拡充でもっとも大きなポイントが、対象となる企業の範囲が広がったことです。「じゃあ、具体的に自分の会社は対象になるの?」という疑問を解消するために、福岡県の例を使って分かりやすく解説します。
福岡県の最低賃金は、改定前の992円から、改定後は1,057円に引き上げられ、令和7年11月16日から発効されます。

従来の業務改善助成金はどうだった?(〜令和7年9月4日まで)

これまでの業務改善助成金のルールでは、「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内」の事業所だけが対象でした。
これを福岡県の改定前最低賃金(992円)にあてはめると…992円+50円=1,042円
つまり、時給992円から1,042円の範囲で従業員を雇用している事業所だけが対象だったのです。事業場内の最低時給が1,043円以上の労働者しかいない場合は対象外でした。

これからはどう変わる?(令和7年9月5日〜)

新しいルールでは、対象範囲が「改定後の地域別最低賃金額未満」まで大きく広がりました。
福岡県の改定後最低賃金(1,057円)で考えると、1,057円より1円でも低い金額、つまり1,056円までが対象になります。
これまで対象外だった時給1,043円から1,056円の事業所も、新たに助成金の対象に加わった、ということです。これは非常に大きな変更点です。

対象になる?ならない?パターン別解説

「結局、うちはどっち?」と迷う方のために、具体的な時給で対象になるかどうか、3つのパターンをご用意しました。
こちらは、仮に改定前の地域別最低賃金が1,000円、令和7年改定後は1,070円となるケースで想定しています。

① 事業場内最低時給が「1,060円」の場合
判定:◯(対象になります)
理由:改定後の最低賃金1,070円よりも低いため、対象です。従来のルールでは、地域別最低賃金+50円という要件を満たさないため対象外でしたが、今回の拡充で対象になりました。

② 事業場内最低時給が「1,069円」の場合
判定:◯(対象になります)
理由:これも1,070円よりも低いため、対象です。ギリギリですが、問題なく申請できます。

③ 事業場内最低時給が「1,070円」の場合
判定:×(対象外です)
理由:改定後の最低賃金とまったく同じ金額は対象外となります。この「未満」という条件は見落としやすいので、くれぐれもご注意ください。

このように、対象となる企業のすそ野が大きく広がりました。
今年はうちの会社は対象外だな、、と思っていた方も諦めずに、ぜひ一度、ご自身の会社の時給(月給制の従業員は時給換算額)を確認してみてください。

5.今年は改定発効日が後ろ倒しされたこともチャンス

なお、今年は最低賃金の改定発効日を例年よりもかなり後ろ倒しする都道府県が多くなっています。
業務改善助成金は改定後の最低賃金発効日前日までなら交付申請できます。
つまり、例年どおり10月の発効なら、もう間に合わないとあきらめていた方もまだチャンスがあります。ただし、事業終了期限は現在のところ令和8年1月31日までとなっています。この期日も後ろ倒しされる可能性はありますが、現時点は未定です。また、現在交付申請が殺到していることを考えると、助成金予算が上限に達して受付が終了される可能性もゼロではありません。そのため申請を考えている方は、早め早めの行動が必要です。
業務改善助成金は、生産性を高める設備やサービスについて、かなり幅広く活用できます。活用することで、5分の1や4分の1の自己負担で設備導入できる、まさに、破格のバーゲンセールのような助成金です。ぜひ活用してください。

6.まとめ

過去最大となった今回の最低賃金の引き上げは、多くの中小企業にとって、まさに経営上の大きなピンチと言えるでしょう。原材料費や人件費の高騰という厳しい現実を前に、頭を抱えていらっしゃる経営者の方も少なくないはずです。
しかし、この変化を単なる「コスト増」で終わらせるべきではないと考えています。
令和7年の業務改善助成金は、対象が「改定後の最低賃金未満」の企業まで広げるという、過去にない大きな拡充がされました。これまで対象外だった企業にも大きなチャンスです。今回拡充された業務改善助成金は、国が「賃上げとセットで、企業の体質改善・生産性向上を本気で後押しする」という強いメッセージです。
この経営上のピンチは、会社をバージョンアップさせるチャンスと捉えることもできます。
生産性を高める設備の導入を検討している場合は、まずは自社が対象になるかを確認してください。
そして対象となりそうなら、この絶好の機会を逃さず活用するため、即行動に移してください。

とはいえ、複雑な申請手続きや、自社に最適な設備投資の計画など、不安な点も多いかと思います。
そんなときは、私たちアイビー社会保険労務士法人にご相談ください。
ひとりで悩まず、ぜひお気軽にお声がけください。一緒にこの大きな波を乗り越えていきましょう。