カスハラ対策義務化はいつから?
中小企業がやるべき10項目
令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、業種・企業規模を問わず全ての企業の法的義務になります(労働施策総合推進法第33条)。
この記事では、対象範囲・カスハラの線引き・会社がやるべき10項目・罰則までを、社労士が一次資料に基づいて解説します。
カスハラ対策の義務化とは?いつから・どの企業が対象?
令和7年に改正された労働施策総合推進法第33条により、令和8年10月1日から、全ての事業主にカスハラ防止の措置が義務付けられます。企業規模による猶予は設けられていません。
用語を先に整理します。カスタマーハラスメントとは、顧客等の言動のうち、社会通念上許容される範囲を超え、働く人の就業環境を害するものです。労働施策総合推進法とは、パワハラ防止措置義務などを定める法律で、令和7年改正でカスハラ防止措置義務(第33条)が新設されました。措置義務とは、事業主が必ず講じなければならない義務で、「〜するよう努める」という努力義務とは区別されます。
厚生労働省のハラスメント対策パンフレット(No.22・令和8年7月作成)によると、第33条は3項構造です。①相談体制・抑止措置などの措置義務、②相談した労働者への不利益取扱いの禁止、③他社から事実確認の協力を求められた場合の努力義務、の3つです。
| 大企業 | 中小企業 | |
|---|---|---|
| パワハラ防止の義務化 | 令和2年6月 | 令和4年4月(2段階) |
| カスハラ防止の義務化 | 令和8年10月1日 | 令和8年10月1日(一斉・猶予なし) |
注目すべきは施行の仕方です。パワハラの義務化は2段階でしたが、今回のカスハラは、企業規模による経過措置のない一斉施行です。さらに第34条第5項は、顧客等の側にも「労働者への言動に必要な注意を払う」努力義務を定めました。
私はこの義務化を、セクハラ・パワハラ・マタハラ対策と共通点の多い制度と見ています。ただし、カスハラ特有の対策があるところがポイントです。
とはいえ「全ての企業」と言われても、接客のない会社はピンとこないはずです。次で対象範囲を具体的に見ます。
接客業ではないBtoB企業も対象になる?
対象になります。法律上の「顧客等」には消費者だけでなく「取引の相手方」も含まれ、BtoB企業も無関係ではありません。

「うちはBtoBだから関係ない」。私はこの言葉を、経営者の方から実際に聞きました。しかし、カスハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は「顧客等」の例として、取引先の担当者、企業間の契約交渉の担当者、施設の近隣住民まで挙げています。今後取引する可能性のある相手も含まれます。
数字でも裏付けられます。厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によると、迷惑行為の行為者の22.6%は「取引先等の他社の従業員・役員」でした。業種別の経験率でも、接客業以外を含むほぼ全業種で1割前後の発生があります。
また、自社の社員が取引先に「する側」になるケースも法の射程です(詳細は別の機会に解説します)。東京都「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」(令和7年3月・都民対象のWeb調査)では、18.2%が「自分の言動がカスハラにあたるのでは」と回答しています。
対象だと分かると、次に必ず出る質問が「では、どこからがカスハラなのか」です。
どこからがカスハラ?正当なクレームとの違いは?
苦情の全てがカスハラではありません。「社会通念上許容される範囲を超えたか」が線引きで、範囲内の苦情には正当な申入れとして真摯に対応します。

線引きに迷うのは特殊なことではありません。前述の実態調査(令和5年度)では、対策を進める上での課題は「ハラスメントかどうかの判断が難しい」が59.6%で最多でした。だからこそ、判断基準を先に押さえます。
見落とされがちな例外もあります。障害のある方が合理的配慮を求めること自体は、カスハラに当たりません。障害者差別解消法により、負担が過重でないときは合理的配慮を行う義務がある点に留意が必要です。
「対応したら客が減る」。私はこの心配も、経営者の方から実際に聞きました。しかし毅然と対応する相手は「範囲を超えた言動」だけです。正当なクレーム対応の質を下げる話ではありません。
線引きの考え方が決まれば、用意するものは絞り込めます。
中小企業は何をすればいい?義務の10項目
最優先は、①「毅然と対応し従業員を守る」という会社方針の明文化・周知と、②相談窓口の設置です。そのうえで、対処手順・悪質ケースへの対応方針・不利益取扱い禁止の規定化を進めます。

指針が求める取組は、「講じなければならない」措置義務と、研修・労使参画などの「望ましい取組」に区別されています。まず措置義務から着手すれば、優先順位を付けられます。パンフレットNo.22の整理では、措置義務は次のとおりです。
- 「毅然と対応し従業員を守る」方針の明文化と周知
- 発生時の対処内容(報告先・交代対応など)の決定と周知
- 相談窓口の設置と周知
- 事後対応(事実確認・被害者への配慮・再発防止)の手順整備
- 特に悪質なケースへの対応方針の事前策定と関係部門の連携体制(警告文の発出・出入り禁止・仮処分の申立てまで指針に例示があります)
- 相談者のプライバシー保護と、相談を理由とする不利益取扱い禁止の規定・周知
対処内容の例には、やり取りの録音・録画や、繰り返しの要求に一定時間の経過をもって退店を求める・電話を切る対応まで、国の指針に明記されています(個人情報保護法等の遵守が条件です)。
就業規則の改定が間に合うか、不安な方もいるはずです。方針を定める文書は就業規則本体に限られず、従業員心得や行動マニュアル等でも差し支えありません。相談窓口も、既存のパワハラ・セクハラ窓口との一体設置が可能です。
国の指針が示されたのは令和8年2月、厚生労働省のパンフレットが出たのは同年7月です。中小企業が具体的に動けるようになってから、まだ日が浅いのが実情です。前述の都民意識調査でも、勤務先が対策を「行っていない」という回答が49.3%でした。私が実務で接している範囲でも、義務化は知っていても手が付いていない会社が、まだ多くあります。やっていないのは御社だけではなく、今から始めれば十分間に合います。私は、サービスレベル向上の研修と同時にカスハラ対策をルール化し、会社として従業員を守るスタンスを明確にすべきだと考えています。
「そこまでやる必要があるのか。罰則はあるのか」——最後にこの疑問に答えます。
カスハラ対策をしないと罰則はある?
直接の刑事罰はありません。ただし、勧告に従わない場合の企業名公表と、報告拒否・虚偽報告への20万円以下の過料があります。罰則の有無以上に、放置は人材面のリスクです。
パンフレットNo.22によると、履行確保の仕組みは、助言・指導・勧告を経て、勧告に従わない場合の企業名公表です(法第42条)。また、報告をしない・虚偽の報告をした者には20万円以下の過料があります(法第51条)。
私は、ここ1〜2年でカスハラ相談が急増している実感は持っていません。実際、実態調査(令和5年度)では、労働者個人の経験率は15.0%から10.8%に低下しています。それでも、相談として表に出てくる件数だけが増え続けているのがカスハラです。同調査で相談件数の「増加」(23.2%)が「減少」(11.4%)を上回ったのは、全ハラスメント中カスハラだけでした。
まとめ:まず会社方針の明文化から
カスハラ対策は、令和8年10月1日から全業種・全企業の法的義務になります。「毅然と対応し従業員を守る」という会社方針の明文化と、相談体制の整備から始めてください。施行日を過ぎていても、着手の順番は同じです。
顧問先の皆さまは担当者へご連絡ください。初めての方は、まず下のセルフ診断(無料)で自社の不足をご確認ください。方針・マニュアル・就業規則の規定・周知物まで一式を整える定額の対応パックもご用意しています。
本記事の内容は令和8年9月時点の情報です。指針や運用は更新されることがありますので、最新情報をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. カスハラ対策の義務化はいつからですか?中小企業に猶予はありますか?
A. 令和8年10月1日施行です。パワハラ義務化と異なり、企業規模による猶予・経過措置は設けられていません(出典: 厚生労働省パンフレットNo.22〔令和8年7月作成〕、厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます」)。
Q2. 電話やSNSでのクレームもカスハラに含まれますか?
A. 含まれます。指針は対面に限らず、電話やSNS等インターネット上の言動も対象と明記しています(令和8年厚生労働省告示第51号)。
Q3. 相談窓口は既存のパワハラ・セクハラ窓口と兼ねられますか?
A. 兼ねられます。他のハラスメント相談窓口との一体的な設置が指針上認められており、外部委託も可能です。
Q4. 就業規則の改定が施行日に間に合わない場合はどうすればいいですか?
A. 方針等を定める文書は就業規則本体に限られず、従業員心得や行動マニュアル等でも差し支えありません。まず方針文書・マニュアルの整備から着手し、就業規則への規定化を進めてください。
Q5. 施行日を過ぎてしまいました。今から何をすればいいですか?
A. 着手の順番は変わりません。まず会社方針の明文化と周知、相談窓口の設置から始めてください。就業規則の改定が後になっても、方針文書と対応マニュアルから着手できます。

