【会社向け】固定残業代とは?
認められる要件と計算・就業規則の記載例
固定残業代は、通常の賃金と区別でき、残業の対価で、超えた分を払う。この3つがそろってはじめて「残業代は払った」と説明できます。計算と就業規則の記載例まで、3,500字で解説します。
結論: 固定残業代は、残業代を定額で前もって払う仕組みで、それ自体は直ちに違法ではありません。判決文から当法人が整理した3つの要素がそろってはじめて、「残業代は払った」と説明できます。
3つの要素、計算の比較、就業規則の作成例を示す、会社側の解説です。
この記事の要点
- 最高裁は、定額払いを直ちに違法とはしていません。
- 区別か対価が欠けると、手当は残業代と数えられず、単価の基礎に入ります。
- 超えた分を払わないと、差額が未払になります。
- 書く・示す・説明するの3つで備えます。
固定残業代とは?定額で払う方法自体は直ちに違法ではない
御社の「営業手当」は、何時間分の残業代でしょうか。固定残業代とは、一定時間分の残業代を定額で前もって払う仕組みです。最高裁は、この払い方を直ちに労働基準法37条違反とはしていません。
この記事で使う言葉
- 固定残業代: 一定時間分の時間外・休日・深夜労働の割増賃金を、残業の有無にかかわらず定額で払うもの(若者雇用促進法の指針などをもとに要約)。
最高裁の平成29年の判決(医療法人康心会事件)によると、法律が求めるのは、法定の計算額を下回らない額を払うことだけです。定額で前払いでき、足りなければ差額を払います。
「厳しい条件がそろわないと使えない」は誤解です。最高裁の平成30年の判決(日本ケミカル事件)は、超えた分をすぐ請求できる仕組みなどの高裁の条件を、必須としませんでした。
実は、労働基準法に「固定残業代」の語はありません。定義は求人の指針にあります。時間数と金額、除いた基本給、超えた分の追加払いの明示を、全ての募集に求めています。
私は、固定残業代は正しく定めれば会社を守る制度だと考えています。問題は制度ではなく、書き方と運用です。
根拠労働基準法37条1項・4項、最高裁第二小法廷 平成29年7月7日判決(平成28(受)222、医療法人康心会事件)判決理由4(1)、最高裁第一小法廷 平成30年7月19日判決(平成29(受)842、日本ケミカル事件)判決理由3(1)・4(1)、平成27年厚生労働省告示第406号 第二の一(一)ハ(ハ)、職業安定法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)第三の一(三)ハ
では、裁判所はどこを見て「残業代を払った」と認めるのでしょうか。
固定残業代の要件は?「基本給に含む」だけでは足りない3つの要素
押さえる要素は、①通常の賃金と区別できる、②残業の対価として払う、③超えた分の差額を払う、の3つです。最高裁が要件として並べたものではなく、判決文の要素を当法人が整理したものです。①②が欠けると残業代と認められず、③を欠くと差額が未払になります。
①か②が欠けると、残業代と認められない払った手当は残業代と数えられず、単価の基礎にも入る(二重の負担)
1通常の賃金と区別できる(判別)
主な判決: 高知県観光(平6)・テックジャパン(平24)・医療法人康心会(平29)
- 残業代に当たる部分が、何時間分・いくらか分かる
- 欠けると: 残業代と認められず、単価の基礎に入る
2残業の対価として払う(対価性)
主な判決: 日本ケミカル(平30)・国際自動車(令2)
- 契約書・規程の記載、会社の説明、実際の残業時間から判断される
- 欠けると: 残業代と認められず、単価の基礎に入る
③を欠くと、その差額が未払になる計算した残業代が固定残業代を上回れば、差額を払う義務がある(医療法人康心会事件)
3超えた分の差額を払う
主な判決: 医療法人康心会(平29)
- 計算した残業代が固定残業代を上回れば、差額を払う
- 欠けると: その差額が未払になる
「基本給(年俸)に残業代を含む」という合意だけでは足りません。年俸1,700万円の医師でも、どの部分が残業代か分からず、認められませんでした。高給の専門職でも区別は要ります(医療法人康心会事件)。
「規程に書けば足りる」も誤解です。日本ケミカル事件の判決によると、対価かどうかは契約書等の記載のほか、会社の説明の内容や実際の労働時間などで判断されます。
出張日当や走行距離に応じた手当は、残業と関係なく決まります。後から「残業代だった」と主張しても、認められにくいです(名古屋地裁 平成28年、福岡地裁 令和6年の判決)。
私が最初に見るのは、手当の条文に「何時間分で、いくらか」と、超えたときに差額を払うことが書いてあるかです。
根拠最高裁第二小法廷 平成6年6月13日判決(平成3(オ)63、高知県観光事件)、最高裁第一小法廷 平成24年3月8日判決(平成21(受)1186、テックジャパン事件)、医療法人康心会事件 判決理由3・4、日本ケミカル事件 判決理由4(1)、最高裁第一小法廷 令和2年3月30日判決(平成30(受)908、国際自動車事件)判決理由4(1)イ、名古屋地裁 平成28年3月30日判決(平成25(ワ)4400)、福岡地裁 令和6年4月24日判決(令和5(ワ)959)
では、区別か対価が欠けて認められないと、計算はどう変わるのでしょうか。
固定残業代の計算は?認められないと二重の負担になる
認められれば、設定した時間までの残業代は払ったことになり、超えた分だけを追加で払います。区別か対価が欠けて認められないと、手当は残業代と数えられず単価の基礎にも入り、全額を計算し直します。
割増賃金の計算の基本はこちらの記事で解説しています。
固定残業代が認められる場合と、認められない場合の比較(例)基本給24万円、1か月平均所定労働時間160時間、固定残業手当5万6,250円(30時間分)、その月の時間外労働30時間
| 認められる場合 | 認められない場合 | |
|---|---|---|
| 単価 | 24万円÷160=1,500円 | (24万円+5万6,250円)÷160=1,851.56円 |
| 1時間の割増賃金 | 1,500円×1.25=1,875円 | 1,851.56円×1.25=2,314.45円 |
| 30時間分 | 5万6,250円(手当で払い済み) | 2,314.45円×30=6万9,434円 |
| 追加の支払い | 0円(30時間を超えた分は1時間1,875円で追加) | 6万9,434円を全額(払った5万6,250円は残業代と扱われない) |
二重とは「払った分がゼロ扱い」と「単価の上昇」が同時に起きることです。最高裁の令和2年の判決(国際自動車事件)も、認められない部分は通常の賃金として計算するとしました。

未払の残業代は、3年分さかのぼって請求されることがあります。原則は5年ですが、見直しの時期を過ぎた令和8年10月現在も「当分の間3年」です。裁判所は、未払額と同じ額までの上乗せの支払(付加金)を命じることもできます。
「労働基準監督署から指摘されたことがない」は、裁判では理由になりません。監督署の判断は裁判所を拘束しない、とした判決があります(名古屋地裁 平成28年の判決)。
「営業手当には時間外手当を含む」の一文だけ、という書き方があります。私は、時間数も金額も無いので、何時間分を払ったのかを会社が説明できないと考えています。
根拠労働基準法37条・114条・115条・143条2項・3項、労働基準法施行規則19条1項4号・21条、労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)附則2条・3条(3年の対象は令和2年4月1日以降に支払期日が来る賃金。見直しの時期は施行後5年の令和7年4月)、国際自動車事件 判決理由4(2)ウ、名古屋地裁 平成17年9月16日判決(平成15(ワ)4903)「第3 判断」1(6)、名古屋地裁 平成28年3月30日判決 判断2、厚生労働省ほか「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」
会社の説明を支えるのは、どの書類のどんな書き方か。次の章で示します。
固定残業代は就業規則にどう書く?記載例と通知書・給与明細
条文に、手当の名前・何時間分か・計算方法・超えた分は追加で払うことを書きます。労働条件通知書と給与明細では、同じ名前と金額を示します。採用時や変更時には従業員へ説明し、記録を残します。
名古屋地裁 平成17年の判決で、会社は手当を45時間分の残業代と主張しました。規定上は残業代と別の手当とされ、口頭で説明したという主張も認められず、単価に手当が入りました。
実は、厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)に、固定残業代の条文はありません。モデルのまま営業手当で運用すると、規則に根拠が無い状態になり得ます。
(固定残業手当)
第○条 固定残業手当は、時間外労働(第○条に定める法定労働時間を超える労働をいう。)に対する割増賃金として、時間外労働の有無にかかわらず、1か月○時間分を定額で支給する。
2 固定残業手当の額は、次の算式により計算した額とし、時間数とともに労働条件通知書に記載する。
(第○条に定める割増賃金の算定の基礎となる賃金(固定残業手当を除く。)÷1か月平均所定労働時間数)×1.25×○時間
3 時間外労働に対する割増賃金の額が固定残業手当の額を超えるときは、その差額を追加で支給する。
(第4項 略)
案ですので、時間数と計算方法は会社ごとに決めます。
表1 書く・示す・説明する
| 書類 | 書く・示す・説明すること | 注 |
|---|---|---|
| 就業規則(賃金規程) | 手当の名前、何時間分か、計算方法、超えた分は追加で支給すること | 常時10人以上の会社は届出が必要(労働基準法)。休日・深夜を含めるなら分けて書く |
| 労働条件通知書 | 諸手当の欄に手当の名前・金額・時間数と、超えた分の追加支給 | 厚生労働省の様式に専用の欄は無い。書き方は当法人の例 |
| 給与明細・賃金台帳 | 規程と同じ名前と金額。台帳には時間外労働の時間数 | 台帳の記入は義務(労働基準法施行規則)。明細の時間数は最高裁で必須とはされていない |
| 説明の記録 | 採用時・変更時に、何時間分・いくら・超えた分は払うことを説明し、書面で残す | 面接で口頭で説明したという会社の主張が認められなかった判決(名古屋地裁 平17)、規則を変えても具体的な説明がなく認められなかった判決(福岡高裁 令7)がある |
後から就業規則で既存の手当を「全額を超過勤務手当として扱う」と改めた例があります。性質の変化や時間数の具体的な説明がなく、認められませんでした(福岡高裁 令和7年の判決)。

私は、賃金規程と労働条件通知書と給与明細の3つで、手当の名前と金額がそろっているかを見ます。
根拠労働基準法89条2号、労働基準法施行規則5条1項3号・54条1項、厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版 第33条・第40条、厚生労働省「労働条件通知書」一般労働者用(令和8年10月1日以降用)賃金欄、厚生労働省ほか「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。」p.1、名古屋地裁 平成17年9月16日判決「第3 判断」1(2)〜(6)、福岡高裁 令和7年8月28日判決(令和6(ネ)403)判決理由7(2)、日本ケミカル事件 判決理由2(5)・4(1)
作成例の「○時間」に何時間を入れるのか。最後に、時間数と最低賃金を確かめます。
固定残業代は何時間分まで?45時間との関係と最低賃金
法律に「何時間分まで」という上限はありません。ただし最高裁は、実態とかけ離れた過大な設定を、認めない方向の事情にしています。
限度時間は、36協定で延ばせる時間外労働の原則の上限で、月45時間・年360時間です(労働基準法36条)。
最高裁の令和5年の判決(熊本総合運輸事件)では、残業は月平均80時間弱でした。それを前提にした額をさらに上回る手当が払われ、想定し難い長時間を見込んだ過大な額とされました。
一方、日本ケミカル事件で認められた手当は約28時間分(月10万1,000円)でした。実際の残業は大半の月が20時間台で、大きくかけ離れていない点が認める事情の1つでした。
私は、実際の残業時間に近い時間数を勧めています。月45時間を超える設定は「長時間労働を前提にしている」と受け取られる余地があるので、避けるべきだと考えています。
最低賃金の計算では、固定残業代を除きます。例えば、令和8年度の東京都の最低賃金は1,280円です。1か月平均所定160時間の会社なら、固定残業代などを除いた月額で20万4,800円以上が要ります(当法人の試算例)。
確かめ方はこちらの記事で解説しています。
根拠労働基準法36条4項・6項、日本ケミカル事件 判決理由2(2)・4(2)、最高裁第二小法廷 令和5年3月10日判決(令和4(受)1019、熊本総合運輸事件)判決理由4イ、最低賃金法4条3項、最低賃金法施行規則1条2項、厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」(東京都は令和8年10月1日発効。発効日は都道府県ごとに令和8年10月1日〜12月2日)
では、自社の条文は、どこから確かめればよいでしょうか。
まとめ:「何時間分・いくら・超えた分は払う」を条文に
固定残業代は、払い方そのものは直ちに違法ではありません。区別と対価がそろえば残業代と数えられ、超えた分を払えば未払も残りません。
条文に書き、通知書と明細で示し、説明して記録を残すことが出発点です。
私は、まず条文に「何時間分・いくら・超えた分は払う」があるかを確かめることを勧めます。古い規程に書いた人を責める必要はありません。今の法令と判断に合わせて、条文を整えればよいだけです。
改定をご依頼いただく場合の料金は、こちらのページで公開しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 固定残業代は何時間分まで設定できますか?
A. 法律に上限はありません。当法人は、実際の残業時間に近く、限度時間の月45時間を超えない時間数を勧めています。
Q2. 残業が固定残業時間を超えたら、どう払いますか?
A. 超えた時間の割増賃金を計算し、差額を追加で払います。最高裁も、計算額が固定残業代を上回るときは差額を払う義務があるとしています。
Q3. 給与明細には何を書けばよいですか?
A. 手当の名前と金額を、規程・通知書と同じにします。明細の時間数は最高裁で必須とされていませんが、賃金台帳には時間数の記入が必要です。
Q4. 労働条件通知書の記載例は?
A. 厚生労働省の様式に専用の欄は無いため、諸手当の欄に「固定残業手当 ○円(時間外労働○時間分。超えた分は追加で支給)」と書く方法があります。
Q5. 固定残業代を減らす・やめるときの注意は?
A. 賃金の不利益変更になり得るため、説明と同意の手続きを先に設計します。基本給の一部を残業代の名目に付け替える組み替えは、当法人は勧めていません。変更の手続きはこちらの記事の手続きの章をご覧ください。

