「130万円の壁」対策の新たな助成金「短時間労働者労働時間延長支援コース」とは(30人未満の小規模企業は優遇されます!)

1. はじめに

2025年7月から、「130万円の壁」に対応した新しい助成金制度が始まります。
今回は、特に小規模企業の経営者の方や、パートで働く方に知ってほしい、この新しい助成金制度「短時間労働者労働時間延長支援コース」について詳しく解説していきます。

2. 背景にある「130万円の壁」とは

「130万円の壁」とは、扶養内で働く配偶者が年収130万円を超えると、自らが健康保険や年金などの社会保険に加入する義務が生じ、その保険料負担によって手取り収入が大きく減少するという現象を指します。
パートタイマーの中には、この「130万円の壁」を気にして本来もっと働きたいのに、労働時間を調整せざるを得ない人が多数います。企業もせっかくの人材を十分に活用できず、人手不足に拍車がかかってしまう深刻な問題が生じています。
国はこの問題を改善するため、従来からあった「106万円の壁」対策に続き、「130万円の壁」への対策を目的とした支援制度を新たに設けました。それが、今回キャリアアップ助成金に追加される「短時間労働者労働時間延長支援コース」です。

3. 新設される「短時間労働者労働時間延長支援コース」の内容

この助成金は、社会保険の加入対象外である短時間・有期契約労働者などが、労働時間を延長して収入を増やすことで社会保険の適用対象となる場合に、事業主に対して助成金を支給する仕組みです。

対象となるのは、これまで週の労働時間が短いために社会保険に加入していなかったパートタイマーです。企業がこうしたパートタイマーの所定労働時間を一定以上延長したり、賃金を一定割合以上引き上げることで社会保険に加入させた場合、企業規模に応じて1人あたり最大で75万円まで支給されます。

「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、1年目と2年目に分けて助成が行われます。
1年目の要件は、所定労働時間の延長および賃金の増加です。
たとえば、週の所定労働時間を5時間以上延長した場合は賃金増加の要件は不要で、小規模企業で50万円、中小企業で40万円、大企業では30万が支給されます。
延長時間が5時間に満たない場合でも、賃金を一定割合(延長時間に応じて5%~15%)引き上げることで対象となり得ます。

1年目の要件

所定労働時間の延長

賃金の増加

小規模企業
(30人以下)

中小企業

大企業

5時間以上

不要

50万円

40万円

30万円

4時間以上5時間未満

5%以上

3時間以上4時間未満

10%以上

2時間以上3時間未満

15%以上

2年目には、さらに2時間以上労働時間を延ばすか、または基本給を5%以上引き上げる、もしくは賞与や退職金制度の適用などの追加的な処遇改善を行うことで支給されます。延長する労働時間や賃金増額率は、1年目との比較で判断されます。

2年目の要件

所定労働時間の延長

賃金の増加

小規模企業
(30人以下)

中小企業

大企業

さらに2時間以上延長

不要

25万円

20万円

15万円

不要

基本給をさらに5%以上増加、または昇給・賞与・退職金制度の適用

4. この助成金の特長

この助成金は、特に小規模企業(常時雇用する労働者が30人以下)に対して、助成金額を手厚く設定している点がこれまでのキャリアアップ助成金になかった特長です。
一方で大企業も含めたすべての事業規模に対応しており、申請できる人数に上限が設けられていない点も特長です。
この制度は、2025年7月1日から当分の間の暫定措置として実施され、従来の「社会保険適用時処遇改善コース」からの切替も可能とされています。

5. 現行制度「社会保険適用時処遇改善コース」からの切り替えも可能

現行の「社会保険適用時処遇改善コース」は、いわゆる「106万円の壁」に対応する制度で、賃金の増加や労働時間の延長により社会保険の被保険者となった短時間労働者を対象に助成する仕組みです。


新制度に比べて、労働時間の延長幅が1時間ずつ短くなっている一方で、助成額は中小企業で30万円となっています。当面はこの現行制度も併存し、令和8年3月末までは現行制度から新制度への切替も可能とされています。

現行「社会保険適用時処遇改善コース」の要件

所定労働時間の延長

賃金の増加

中小企業

中小企業以外

4時間以上

不要

30万円 22万5,000円

3時間以上4時間未満

5%以上

2時間以上3時間未満

10%以上

1時間以上2時間未満

15%以上

6. 今後予定される社会保険適用拡大の地ならしとする見方も

厚生労働省は、2024年10月から企業規模51人以上の事業所については、以下の基準を満たす場合、社会保険の加入対象を広げる改正を行いました。

・週の所定労働時間が20時間以上であること
・月額賃金が8.8万円以上であること
・2か月を超える雇用の見込みがあること
・学生ではないこと

今後は、次のスケジュールで段階的に適用範囲を拡大し、2035年10月には企業規模要件を完全に撤廃する予定です。

① 2027年10月:企業規模36人以上に拡大
② 2029年10月:企業規模21人以上に拡大
③ 2032年10月:企業規模11人以上に拡大
④ 2035年10月:企業規模の要件完全撤廃

さらに、2029年10月以降に新たに事業を開始する個人事業についても、従業員数5人以上となったら社会保険が強制適用される見込みです。

つまり、今後、法人事業所は企業規模の大小に関わらず、そして個人事業主も従業員数5人以上の事業所は、パートタイマーも含めて社会保険に加入する義務が生じることになります。今回の助成金制度は、この社会保険適用拡大の流れに先駆けて、企業がパートタイマーの労働時間を増やし、社会保険加入を促すための準備期間としての意味合いも持っていると考えられます。

企業にとっては、今後の社会保険制度変更を見据え、今のうちから短時間労働者の働き方や社会保険加入について検討し、準備を進めておくことが重要になります。

7. 中小企業が今から準備すべきこと

「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、就業調整を行うパートタイマーの労働時間と賃金を適正に引き上げ、社会保険への加入を促進するための支援策です。制度を有効に活用するためには、まず自社における短時間労働者の労働条件や就業実態を把握し、誰を対象にどのような労働時間の延長・処遇改善を行うかを検討する必要があります。
今後数年にわたり最低賃金の大幅増、物価高、人手不足といった3重苦が経営を圧迫するおそれがあります。
中小企業は特に賃金体系の見直しや、業務効率化を検討し、この助成金を活用する場合は、所定労働時間の延長計画を早めに検討し、実施に進めることが重要です。

8. まとめ

本記事では、「短時間労働者労働時間延長支援コース」について詳しく解説しました。この制度が、小規模企業の人材活用や従業員の働き方改革の一助となれば幸いです。
助成金制度は複雑で分かりにくい部分もあるかと思いますが、うまく活用すると、より良い職場環境づくりを推進することができます。

※本記事の内容は2025年4月18日時点の情報に基づいています。
※制度の詳細や申請方法については、必ず厚生労働省の最新情報を確認してください。