はじめに
令和7年4月から改正育児・介護休業法が順次施行されます。今回の改正では、男性、女性がともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、柔軟な働き方の選択肢を増やし、従来からあった両立支援制度の対象となる労働者範囲が拡充されます。また、育児休業等の取得状況を公表する義務対象となる企業規模の拡大、次世代育成支援対策の推進・強化、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度が盛り込まれています。いずれも中小企業を含めすべての企業に対して措置等が義務付けられるものです。
特に中小企業においては人手不足や人材の定着化に苦戦している状況かと思いますが、安定的な人材確保や従業員の定着に向けた取り組みとしても育児・介護対応は重要な課題となります。
主な改正内容
今回の改正の主なポイントは以下のとおりです。
- 柔軟な働き方を実現する措置等の義務化
- 所定外労働の制限(残業免除)の対象範囲拡大
- 育児・介護のためのテレワーク導入が努力義務化
- 子の看護休暇の見直し
- 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮の義務化
- 育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大
- 介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置義務化
順番に確認していきます。
1. 柔軟な働き方を実現する措置等の義務化
まず1つ目は、柔軟な働き方を実現するための措置等が事業主の義務になる点です。
具体的には、3歳から小学校入学前までの期間において、時差出勤や就業時刻の変更、テレワーク、保育施設の運営、新たな休暇制度の付与、短時間勤務制度など、5つのメニューから会社が2つ以上を決めて利用できるようにし、従業員がそのうち一つを選択して利用できるようにすることが求められます。また、選択した制度に関しては従業員に対する個別の周知や意向確認も必要です。
個別周知や意向確認の方法の詳細については、今後記載例等が公表されると思いますが、すでに厚生労働省が公表している「個別周知・意向確認書記載例、事例紹介、制度・方針周知ポスター例」が参考になるかと思います。
2. 所定外労働の制限(残業免除)の対象範囲拡大
2つ目は、残業免除の対象範囲の拡大です。現行法では「3歳未満」の子を養育する労働者が対象となっていますが、これが「小学校入学前」の子を養育する労働者まで請求可能となり対象範囲が拡大されます。
3. 育児・介護のためのテレワーク導入が努力義務化
3つ目は、テレワークの努力義務化です。3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるような措置を講ずることが努力義務化されます。ここには、要介護状態の家族を介護する労働者も含まれます。
これまで、テレワークを努力義務にする法律がなかったので驚かれるかもしれませんが、これはあくまで3歳未満の子を養育する労働者にテレワークという選択肢を加える趣旨のものです。すべての労働者にテレワークを強制したり、テレワークが不可能な業種や職種にテレワークを強制するものではありません。しかし、ほとんど完全にデスクワークをしているような職種で、対象労働者がテレワークを希望しているにもかかわらず、「うちはテレワークできません」と言って導入する努力すらしないケースでは、労使トラブルが発生する可能性はあります。場合によっては都道府県労働局から助言・指導を受ける可能性もあります。
テレワークによって通勤時間がなくなることで、短時間勤務しかできなかった人がフルタイム勤務が可能になる、あるいは浮いた時間で家事をこなすことでワークライフバランスを保ちやすくなるというメリットがあります。自社として、今後どのようなテレワークが可能かをもう一度検討する必要があると思います。
4. 子の看護休暇の見直し
4つ目は、看護休暇の見直しです。対象となる子供の範囲が広がります。現行の法律では小学校就学の始期に達するまで(小学校入学まで)となっていますが、これを小学校3年生終了まで(小学校3年生が終わるまで)使えるようになります。取得目的や事由も見直されます。現在は病気やけが、予防接種、健康診断に限定されていますが、改正後はこれらに加えて感染症による学級閉鎖、入学式、入園式、卒園式も目的に追加されます。
なお、現行の法律では、労使協定で看護休暇の対象から除外できる労働者として2種類が認められていますが、来年4月以降は、労使協定で除外できるのは週の所定労働日数が2日以下の人のみとなります。つまり、入社6か月未満の労働者を子の看護休暇の対象から除外することができなくなります。そのため、現在労使協定を締結している場合は、協定の取り直しや規定の見直しが必要となるでしょう。
5. 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮の義務化
5つ目は、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮が事業主の義務になるという点です。妊娠出産の申し出時や子供が3歳になる前などに、仕事と育児の両立について個別の意向聴取と配慮が義務付けられます。ここでいう「配慮」とは、例えば子供に障害がある場合や一人親家庭で子供を養育する場合など、労働者の希望に応じて制度をより柔軟に運用できるようにすることです。
6. 育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大
6つ目は、育児休業取得状況の公表義務です。現在は従業員数1,000人超の企業が公表義務の対象ですが、来年4月以降は300人超の企業に拡大されます。
7. 介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置義務化
7つ目は、介護離職防止のための個別の周知、意向確認、雇用環境整備等の措置が事業主に義務付けられる点です。現在、家族の介護をしながら働く人のうち、年間10万人が介護離職しており、介護休業などの制度を知らないまま離職するケースが相次いでいます。
今回の改正により、従業員が介護保険の対象となる40歳になったタイミングで自社の介護休業等の支援制度について情報提供することが会社に義務付けられました。また、実際に家族介護が必要になった従業員には、自社の両立支援制度を個別に周知し、必要な制度が選択できるようにすることも義務となります。さらに、介護に関する両立支援制度を利用しやすくするための研修や相談窓口の設置などの雇用環境整備も必要です。
次世代育成支援対策推進法の改正
次世代育成支援対策推進法も2つの改正が行われています。
1つ目は、法律の有効期限が2035年3月末までに10年延長されます。
2つ目は、一般事業主行動計画策定時に次のことが義務付けられます。
・計画策定時の育児休業取得状況や労働時間の状況把握等(PDCAサイクルの実施)
・育児休業取得状況や労働時間の状況に関する数値目標の設定
法改正対応で活用できる助成金
ここまで法改正について見てきましたが、中小企業がこの法改正への対応を進める際に活用できる助成金制度があります。
両立支援助成金の中に今年から新たに創設された「柔軟な働き方選択制度等支援コース」がそれにあたります。
具体的には、3歳以上小学校就学前までの子供を養育する労働者が利用できる制度として、柔軟な働き方ができる制度の中から会社が2つ以上を導入し、対象となる労働者に実際に利用させた場合に受給できる助成金です。導入した制度が2つの場合には20万円、3つ以上の場合には25万円が支給されます。これは対象者1人につき支給され、上限は1事業者につき1年度で5人までです。1年度あたり最高で125万円受給可能です。例えば、ある労働者が時短勤務制度を利用して会社がこの助成金を受給した後に、同じ労働者が同じ子供のために別の制度であるテレワーク勤務制度を利用した場合、会社は再度助成金を受けることができます。ただし、同一の労働者が同一の子供のために同一の制度を2回重複して利用した場合には、2回目は助成金の対象となりません。
支給申請までの大まかな流れは次のとおりです。
- まずは柔軟な働き方選択制度を就業規則に規定します
- 次に対象者にプラン作成の面談を実施し、具体的なプランを作成します。このプランには、制度利用期間中の業務体制の検討、制度利用後のキャリア形成を円滑にするための措置、制度を理解するための研修制度の実施などが含まれます
- プランに基づいて会社が制度利用を支援します
- 利用開始から6ヶ月間の実績を経て支給申請を行います
両立支援助成金には、「柔軟な働き方選択制度等支援コース」以外にも、中小企業における仕事と育児介護の両立を支援するためのさまざまなコースがありますので、リーフレットを参照いただき活用をご検討ください。
まとめ
今回は育児介護休業法の改正について見てきました。
来年4月からの施行ですので、それまでに自社としてどのように対応するかを検討し、就業規則や労使協定の見直しをすることが必要です。
ここ数年、育児介護休業法の改正が繰り返されていますので、そもそも自社の現行の育児介護休業規程が最近の法改正に対応しているかの確認も必要です。
空前の少子化と超高齢社会が同時に進行している日本において、中小企業が優秀な人材を採用し定着させていくことはますます重要な課題になります。法改正への適切な対応を行うことで、従業員の育児・介護との両立を支援し、安心して働ける職場環境を作ることが企業としての魅力を高め、従業員の採用、定着にも良い影響を与えることとなるかと思います。