2025年版 キャリアアップ助成金 令和7年度の半減対策!すべての企業が80万円満額受給できる方法を徹底解説

1.はじめに

令和7年度からキャリアアップ助成金「正社員化コース」の支給額が突然半減されました。「え!?、いきなり40万円に…?」と落胆された企業担当者の声が聞こえてきそうです。しかしご安心ください。ある条件を満たせば、従来どおり80万円を満額受給できます。しかも、すべての企業でムリなく対応可能な現実的な方法があります!
本記事では、その最適解を実務家目線でていねいに解説していきます。

2.キャリアアップ助成金の前提知識

パートタイマーとして勤務してきた優秀な従業員を正社員に登用したい。
そんな場面で毎年多くの企業で活用されてきたのがキャリアアップ助成金の「正社員化コース」です。
この助成金は、有期雇用契約や無期雇用契約で働く非正規労働者を正社員に転換した事業主に対して、一定額の助成金が支給される仕組みです。対象となるのは、パート、アルバイト、契約社員等の非正規雇用労働者で、さらには派遣社員も含まれます。
支給の前提として、いくつかの基本要件があります。ここで大まかに3つの最低要件のみご説明します。
1つ目は、「キャリアアップ計画書」の提出です。これは正社員に転換する前日までに、あらかじめ労働局に届け出る必要があります。
2つ目は、6か月以上雇用している上記の非正規労働者を正社員に転換することです。少なくとも採用から6か月以上経過している非正規労働者が対象となります。
3つ目は、転換時に基本給等の固定給を3%以上増額し、その後6か月以上の継続雇用を行うことです。

3.令和6年度までと令和7年度からの支給額を比較

ここで、令和6年度までと令和7年度からの中小企業における支給額を比較しておきましょう。

・令和6年度:有期→正社員=80万円、無期→正社員=40万円
・令和7年度:有期→正社員=40万円、無期→正社員=20万円

バッサリと半減です。「なぜ、いきなりここまで?」という声が現場から聞こえてきてもおかしくありません。

4.支給額半減の背景

この支給額の大幅減額の背景には2025年度から、厚生労働省がキャリアアップ助成金全体の予算を絞り込む方針を打ち出しました。限られた財源の中で、「本当に支援が必要な人材」に集中して手を差し伸べる。という新しい方針を打ち出した形です。
従来は、非正規労働者を正社員にさえ転換すれば、誰でも2期に分けて80万円支給される、という広範な制度設計でした。しかしながら、令和7年度からは「重点支援対象者」という、特に支援が必要な労働者に限定して80万円支給を維持し、それ以外のケースについては原則半額とする制度に改められました。
すなわち、就労困難層への実効性ある支援や、企業の人材育成の取り組みをより後押しする方針へと明確に切り替えたということです。
とはいえ、これは中小企業にとってネガティブな変更とばかり捉える必要はありません。
実は「重点支援対象者」に該当する要件を理解し、実行可能な方法を選べば、これまで通り80万円をしっかり受け取ることができるのです。その方法については次章で詳しく見ていきましょう。

4.「重点支援対象者」の5分類

① 長期間有期雇用のまま働いている人
→雇入れから3年以上、有期契約で継続して雇用されている人が該当します。例えば、2022年4月入社の契約社員を2025年6月に正社員化する場合、3年2か月が経過しており、条件を満たします。
② 正社員経験が特に少ない人
→過去5年間のうち正規雇用の期間が1年以下、かつ直近1年間に正社員として雇用されていなかった人です。新卒後アルバイトを続けていた方や、家事・育児等で正社員歴が乏しい人が対象になります。
③ 派遣労働者
→派遣として受け入れていた人を直接雇用し、正社員へ登用する場合、条件を問わず重点支援対象者とされます。
④ 母子家庭の母
→20歳未満の子を養育している母、または一定の障害のある子を持つひとり親が該当します(※父も対象)。
⑤ 人材開発支援助成金の特定コース修了者
→対象となる3コースの訓練を修了した非正規労働者がこれに該当します。

この中で、1~4は採用時点である程度決まっている「属性ベース」の条件、5のみ企業が取り組みを行うことにより重点支援対象者にすることができる実務ベースの条件となります。

5.対象判定の注意点

「条件に合っていると思ったのに、実は対象外だった……」
こうしたケースを防ぐため、特に上記①と②の重点支援対象者に該当するかどうかを確認する場合にはやや注意が必要です。

まず確認すべきは、「今の契約形態が有期雇用かどうか」です。
無期や正社員で雇っている場合は、そもそも重点支援対象者とはなりません。

次に「雇用期間が3年以上かどうか」を確認して、3年以上であれば対象…なのですが、ここではさらに注意すべき点があります。
それが「無期転換ルール」です。労働契約法第18条に基づき、有期契約で5年を超えて雇用された労働者には、本人が申し出れば自動的に無期雇用へ転換される権利があります。仮に申し出がなくても、助成金制度上は「無期転換されたもの」と見なされ、助成金の計算上では「無期→正社員転換」とされてしまいます。
結果として、その場合は重点支援対象者とはならず、支給額も20万円に減額されてしまいます。
そのため、正確には有期雇用期間3年以上5年以下での正社員転換の場合がこれに該当するということになります。

一方、「正社員経験が少ない人」に該当するかの判定もやや複雑です。
以下のAB両方を満たす必要があります。

【判定基準】
A. 過去5年間に正社員歴が合計1年以下であること
B. 採用前の1年間、正社員として雇用されていなかったこと

ただし、これらは自己申告+労働局の雇用保険記録照会で確認されるため、本人による自筆署名付きの確認票様式の添付が必要となります。

6.全企業が使える!教育訓練で重点支援対象にする方法

「どの条件にも当てはまらない…」そんな時でも、あきらめる必要はありません。実は、すべての企業がある取り組みを行うことで重点支援対象者に該当させることができます。それが「人材開発支援助成金」の活用です。この人材開発支援助成金には7つのコースがありますが、重点支援対象者となる条件を満たすのは以下の3つです。

①人材育成支援コース
→社内OJTやOFF-JTを通じた基礎的なスキル習得が対象。対象範囲が広く、制度利用の初歩に適しています。
②事業展開等リスキリング支援コース
→新規事業やデジタル化に伴う再教育など、企業変革を前提にした訓練向け。助成率最大85%と高水準。
③人への投資促進コース
→幅広い職種・階層を対象とした外部教育訓練への助成。定額制訓練にも対応しており、最も使いやすい選択肢です。

これらの訓練を正社員転換前に実施すれば、重点支援対象者として80万円の満額支給が受けられます。

7.手軽で効果的!おすすめは定額制訓練

ここからが重要なので、最後までついてきてください。
「とはいえ、人手も時間も余裕がなくて教育訓練なんてできない…」という中小企業も多いのが実態ではないでしょうか。そんな中小企業に朗報なのが、いま注目されているサブスク型の定額制訓練です。
Netflixのように、月額料金を支払うことで多数の教育動画コンテンツを自由に視聴できる形式で、業務の隙間時間にPCからアクセス可能。社内講師も研修場所も不要で一人当たりの研修費用も格安です。
これなら人手が足りない会社でも、現場を止めずに教育訓練が実施可能です。

この定額制訓練が対象となるのは、上記3つのうち以下の2つです。

② 事業展開等リスキリング支援コース
③ 人への投資促進コース(助成率60〜75%、上限2万円/月)

②の「事業展開等リスキリング支援コース」は、助成率が最大85%ともっとも有利な条件で受給できますが、新事業展開や業務のデジタル化といった要件をキッチリ満たす必要があるので、対象となる企業、ならない企業があります。その意味では若干ハードルが高いコースとなります。

③の「人への投資促進コース」は、対象講座を正しく選べば企業規模や業種を問わず使えるため、中小企業にとって現実的な選択肢です。

人への投資促進コースの定額制訓練を活用する大まかな流れは次のとおりです。

1)訓練サービス選定
2)教育訓練機関と契約
3)訓練開始1か月前までに労働局へ計画提出
4)合計10時間以上の視聴
5)訓練修了後に助成金申請

8.定額制訓練の講座選定は慎重に!助成対象の条件を満たすには?

とはいえ、どの教育訓練でも助成されるわけではありません。定額制訓練の中でも、助成対象となるにはいくつかの条件があります。

【要件1】訓練内容の職務関連性
→受講内容が実際の業務やスキル向上に直結していること。たとえば事務職であれば、PCスキル系や最近では生成AI教育などは特に該当しやすいです。

【要件2】LMS(学習管理システム)の導入
→受講履歴、視聴時間、進捗状況が記録され、会社側が管理・証明できること。
※「いつ」「誰が」「どんな講座を」「何分」受講したかを管理者が把握でき、かつデータ出力できる仕組みが必要です。

【要件3】訓練講座の一覧やカリキュラムの明示
→計画提出時点で講座内容を明確に説明できる資料が求められます。

さらに、助成申請時にはLMSから受講履歴データをCSV等で出力し、申請書類に添付することが義務づけられています。

「安価で手軽」なイメージのある定額制訓練ですが、制度要件を満たしていないサービスを使うと不支給になるリスクもあります。講座選定に迷ったら、あらかじめ労働局や専門家に確認するのが確実です。

9.まとめ:今後はキャリアアップ助成金+人材開発支援助成金はセットで考える

2025年度からキャリアアップ助成金の正社員化コースの支給額は一律ではなくなりました。しかし、「重点支援対象者」に該当するための5つの条件を理解し、戦略的に対応することで、これまでどおり80万円の満額支給を受けることは可能です。

特におすすめは、すべての企業が実践可能な「人材開発支援助成金」の活用です。特に「定額制訓練」を組み合わせた方法は、中小企業にとって手間もコストも少なく、現実的な対応策と言えます。今後は、キャリアアップ助成金の正社員化コースと人材開発支援助成金をセットで活用するのが一般的になるでしょう。