急速に普及するホンモノのAIとどう向き合うべきか

数年前から続いていたAIブームも、iPhoneのSiriその他のAIアシスタントはお遊び程度であり、現実的に使えるのはまだまだ遠い将来だと思っていました。しかし、ここ数ヶ月の短い期間にいきなりホンモノのAIが登場し、私たちはついにAIと真剣に向き合うべき時代に差しかかりました。

OpenAIが開発した人工知能(AI)であるChatGPTは、私たちの日常生活やビジネスを大きく、そして根本的に変えようとしています。文章作成、質問への回答、アドバイス提供、さらにはコードの作成など、このAIはまさに「スーパーブレイン」とも言える存在であり、何百万人もの人々が共有する知識と経験を集約したような能力をもっています。
ChatGPTの大規模言語モデル(LLM)は、インターネット上のテキストデータを利用して自然言語のパターンを学習します。また、転移学習と呼ばれる技術を用いて、大量の事前訓練データを特定のタスクに適応させることで、会話スキルを磨いています。その結果、高度な自然言語理解と生成能力をもつようになります。

ChatGPTにできること・将来性

ChatGPTは、質問応答、文章生成、会話の継続など、多くの自然言語処理タスクに対応しており、驚くほど自然にユーザーの言葉を理解し、それに対応する内容を生成する能力をもっています。さらに、一般的な質問に答えるだけでなく、特定の領域に特化した形でChatGPTを訓練することも可能です。たとえば、医療や法律、金融などの専門知識をもつバージョンのChatGPTを開発することができ、それらの開発はすでに進んでいるものと思われます。また、ChatGPTは明確なキーワードがない質問にも類推して答えてくれるため、ユーザーサポートのようなサービスでも飛躍的に満足度を上げる可能性があります。

将来的には、より高度な理解と予測能力をもつAIがつぎつぎと登場してくるでしょう。これにより、現在は難しいとされている創造的な作業や感情的な対話、個々のユーザーのニーズに対応したパーソナライズされたサービスの提供が可能になると予測されています。

現在のChatGPTではできないこと、将来的にも難しいと思われること

ChatGPTは優れた能力をもっていますが、現時点ではまだいくつかの制限があります。その一つは、モデルが新たな情報を学習したり、現在の事実を認識したりする能力です。ChatGPTは訓練時に入手可能だった情報に基づいて応答を生成しますが、訓練後に発生した事実や情報を学習することはできません。
また、現時点のChatGPTは文脈を適切に理解し続けることが難しく、とくに長い会話では迷走してしまうことがあります。複雑な情感や微妙なニュアンスを完全に理解することもまだ困難です。

将来的にも、一部の人間特有の能力、とくに抽象的な思考や深い感情的な理解、独自の経験に基づく洞察をAIが達成することは困難であると予測されています。
とはいえ、抽象思考も感情理解も単に言語化が難しいだけで、今後コンピューティングパワーの飛躍、言語モデルの最適化やトレーニングが加速することにより、AI自身がこれらを言語化し、人間を超えた抽象概念や、深層的な感情を瞬時に洞察できるようになる可能性があるのでは?と思ったりもします。

ChatGPTを利用する場合の注意点(著作権・肖像権)

ChatGPTを使用する際は、その出力が著作権や肖像権を侵害しないよう注意が必要です。たとえば、特定の著作物を引用または再現するようなリクエストは避けるべきです。また、特定の人物を模倣したり、その人物の名前や肖像を無許可で使用したりする行為も法的問題を引き起こす可能性があります。

また、AIの出力を商用目的で利用する際は、その使用が適法であることを確認することが重要です。具体的な使用法や地域によっては、追加の許可やライセンスが必要となる場合があります。

企業がAIのビジネス活用において留意すべきこと

企業は、ChatGPTをカスタマーサポート、コンテンツ生成、資料やレポートの草稿の作成などさまざまな場面で活用できますが、ChatGPTの出力は常に監視と調整が必要であり、完全に自動化されたシステムに依存することはリスクを伴います。その理由は、AIが予期しない回答を提供したり、時には不適切な内容を生成したりする可能性があるからです。したがって、人間の監督が必要であり、とくに顧客と直接対話する場合には、その品質と適切性を確保するために、AIの応答を確認する仕組みを設ける必要があります。

また、ChatGPTを活用する際には、個人情報保護の観点からも注意が必要で、顧客の個人情報を収集、処理する際には、その情報が適切に保護され、法律に準拠していることを確認しなければなりません。とはいえ、あまりにも早いAI普及のスピードにユーザーのコンセンサスや、法整備が追いついておらず、個々の企業にとっては何を基準にAI利用のルールを策定したら良いのか戸惑うのが現状かと思います。

そんななか、2023年5月1日に日本ディープラーニング協会がAI利用における一般的な考え方を共有するため、「生成AIの利用ガイドライン」を 公開しています。今後企業においては、こうしたガイドラインを参考に自社におけるAI活用のルールをきめてゆく検討が必要になるでしょう。