導入する企業が増えている「アルムナイ採用」とは

アルムナイ採用とは

アルムナイ採用とは、退職者が再び同じ企業に入社するしくみのことです。「アルムナイ(Alumni)」は卒業生を意味し、ここでは「企業を卒業した人」をさします。企業での経験を持つ退職者が再入社することで、すでにもっているスキルや知識を再活用し即戦力として活躍できる可能性が期待できます。
また、退職者自身もかつての職場環境や業務を理解しているため、再入社後の適応がスムーズに進むことが多いです。新たに人材を採用するよりも選考や教育にかかるコストをおさえられる点も特徴です。

欧米ではすでに一般的な人材戦略として広く導入されています。例えば、外資大手コンサルティング企業(アクセンチュア)では、約30万人の元社員が登録する専用ポータルサイトを運営し、求人情報の提供やアルムナイ同士の交流を促進しています。一方、日本ではアルムナイ採用の導入はまだ始まったばかりで、主に大手企業での採用にとどまっている印象もあります。 この違いは、欧米に比べて日本では終身雇用の文化がいまだ根強く、退職者との関係維持に対する意識が低かったことが背景にあります。
しかし、株式会社プロフェッショナルバンクが2023年に行った調査(有効回答数299名)によれば、調査対象企業におけるアルムナイ採用の導入率はすでに70%に達しており、日本でも大手を中心に一般的になりつつあることがうかがえます。

このように、アルムナイ採用は、労働市場の流動化や人材確保の競争が激化するなかで、優秀な人材確保の有効な手段として注目を集めています。

アルムナイ採用を導入するメリット

アルムナイ採用を導入するメリットは、即戦力となる人材を効率的に確保できる点です。退職者は企業文化や業務内容を理解しているため、教育や適応にかかるコストや時間を大幅に削減できます。また、一連の採用過程の負担が軽減され、選考の精度も向上します。
さらに、退職者との関係性を良好に維持することで、企業への信頼や従業員の働きやすさが向上し、持続的な人材活用が可能となります。特に、退職者が外部で培った新たなスキルや視点を活用することで、組織内に新しい価値やイノベーションをもたらす可能性も期待できます。
また、アルムナイ採用の活用は、在籍中の従業員にも「企業が長期的な関係を重視している」というメッセージを伝える効果があり、社員のやる気や会社への信頼感の向上にも良い影響を与えます。

アルムナイ採用とリファラル採用との違い

多くの企業ですでに定着している採用方式として、リファラル採用(従業員紹介制度)があります。リファラル採用とは、社員や関係者からの紹介を通じて人材を採用する方法です。すでに在籍している社員や関係者の知り合いであることから、信頼性が高く、社内文化への適応が期待できる点が特徴です。
一方、アルムナイ採用は、退職者を再び採用する仕組みで、即戦力としての活躍が見込まれる採用手法です。

両者を比較すると、リファラル採用は候補者が企業文化を十分に理解していない場合もあるため、教育が必要になることがありますが、新たな視点を持ち込む効果が期待できます。一方で、アルムナイ採用は既存の文化や業務への適応がスムーズで、即座に成果を上げやすいという利点があります。

これからの人材確保では、リファラル採用は新しい人材を取り入れ組織を革新する役割が、アルムナイ採用は効率的に即戦力を確保し企業文化を維持する役割が期待され、両者を適切に活用することで効果的な採用手法とできる可能性が高まります。

<アルムナイ採用とリファラル採用の違い>

  アルムナイ採用 リファラル採用
採用対象 退職者 現従業員や関係者の紹介者
候補者の信頼性 高い(既に関係性あり) 比較的高い(紹介元の信頼による)
企業文化への適応 高い 場合による(環境適応が必要)
即戦力性 期待できる 状況による(教育後に期待)
新しい視点の導入可能性 あり 高い
採用の主な目的 効率的に即戦力を確保 属性の近い従業員の確保
教育・研修の必要性 通常不要(場合より必要) 必要(場合に応じて適応教育)
メリット 企業文化や業務への適応性高
即戦力の確保
能力や人柄の信頼性
採用プロセスの簡略化
教育コストの低減
定着性や企業への信頼性高
信頼できる人材獲得可能性高
新しい視点やアイデア
企業文化や雰囲気を理解度
採用コストの削減(広告費用など)
定着性や企業への信頼性高
デメリット 過去の職場環境や固定観念
多様性に乏しくなる場合
スキル等で再雇用が不適合になるリスク
公平性の問題
文化適合の確認が必要な場合
多様性を損なう可能性
選考プロセスで紹介者の影響を受ける可能性

アルムナイ採用のやり方

中小企業がアルムナイ採用を実施する方法として、退職者向けに情報発信や交流機会を提供し、企業との関係を継続的に維持するというやり方が考えられます。
一部の大手企業ではアルムナイネットワークを構築し、定期的なOB会の開催や社内報を退職会員にも送信する等の取り組みを実施しています。
しかし、月間総務オンラインが行った「アルムナイについての調査」によれば、アルムナイネットワークを構築している企業割合は1割程度に留まっているため、中小企業でもいち早くこうした取り組みを行へば他社と差別化できる可能性もあります。

次に、退職者との連絡や情報管理ができる仕組みを作っておくというやり方もあります。退職時に将来の再雇用可能性について説明し、連絡先やキャリア情報を定期的に更新する仕組みを整えることができれば、必要なタイミングで適切な人材に連絡をとることができます。

正式なアルムナイ採用制度を導入する場合は、再雇用の資格要件や再雇用時の手続き、会社からの案内方法、再雇用者の処遇等を定めた社内規程を制定し、従業員が退職する際に希望すればアルムナイ採用候補として、エントリーできる仕組みを作っておくのも有効です。

また、再入社後に活躍してもらうためには、事前の受け入れ体制の整備が重要です。担当する職務内容を明確にしたうえで、再入社後の受け入れ体制を整え、社内でスムーズに業務に取り組める環境を提供することで、アルムナイ採用の成功率を高めることができます。

アルムナイ採用実施時の注意点と課題

アルムナイ採用を実施する際には、いくつかの注意点と課題があります。
まず、「退職者の個人情報管理」です。在籍中に取得した情報を再活用する場合、個人情報保護法やプライバシーに関する法規制を遵守しなければなりません。情報の取り扱いには厳重な管理体制を整備し、在職中または退職時に本人の同意を得た上で適切に運用する必要があります。

次に、「導入時の従業員への周知と教育」です。アルムナイ採用の目的や意義を現職の従業員に明確に伝えないと、不公平感や誤解が生じる可能性があります。従業員向けの説明会やQ&Aを通じて、従業員に理解を促進し透明性の高い運用を図ることが重要になります。再採用時に客観的な選考基準が欠けていると、ミスマッチや現職従業員との間で摩擦が発生する可能性があります。退職後のスキルや経験を正確に評価し、組織への貢献度を予測するための選考基準を設けることが必要です。

また、退職後の状況変化により再入社後にミスマッチが発生する可能性もあります。これを防ぐには、入社前に職務内容や期待値を再確認し、双方が納得した上で採用を進めることが重要になります。次に、企業文化への適応や調整の課題です。退職者が再入社時に、在職中と異なる企業風土や働き方の変化に適応できない場合があります。これを防止するには、事前に現在の会社の状況をしっかり共有し、必要に応じた支援を行うことが求められます。

まとめ

アルムナイ採用は、優秀な人材を効率良く採用できるだけではなく、「関係性維持によるモチベーションの向上」など従業員エンゲージメントを強化する有効な手段ともなります。退職後も企業との関係が続くと認識されれば、在職中の従業員にも安心感が生まれ、会社への信頼感やモチベーションが向上します。

また、アルムナイ採用を効果的に実施するために有効なのが、「退職者フォローアップ体制の整備」です。退職者が再び企業と関わりやすくするため、定期的な情報発信や交流イベントの実施が重要です。これにより、退職者との関係を持続的に構築でき、再入社のきっかけを作るだけでなく、企業の社会的評価の向上にも寄与します。
退職者は、企業で培った知識や経験だけでなく、外部で得た新たなスキルや視点を持ち帰るため、組織に新しい価値をもたらします。退職者も「企業の仲間」として組織づくりに含めることで、柔軟性のある強い組織体制を構築できます。このような仕組みは、現職者・退職者双方に好循環を生み出します。

労働市場の流動化や人材確保の競争が激化するなかで、今後中小企業は、退職者も含めた組織づくりの可能性を検討することが重要になっています。